夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

 「春期限定いちごタルト事件」につづく小市民シリーズ第2弾。ここひと月ほど小説読書から遠ざかっていたので、ひさしぶりの読後感想になる。

 竹宮ゆゆこの「とらドラ!」を読みあげられなかったときには、もう小説読者には戻れないかもしないと覚悟したが、この本は大丈夫だった。やはり薄い本は素晴らしい。ハードカバーで5,600ページもあるような本は、あれは本ではない。ダンベルとか漬物石の仲間である。

 さて、「夏期限定トロピカルパフェ事件」の話。ネットで感想をあさってみると、この本の評価が非常に高いことがわかる。Amazonでもはてなでも、ほとんどの感想に絶賛のことばがならんでいる。

 あのid:trivial氏までわざわざイタリック体を使って褒めているのだから、ただ事ではない。しかも「クドリャフカの順番」、「犬はどこだ」と本作の秀作がつづいたあとの新作だ。読む前から期待も高まろうというものだ。

 そしてその期待は裏切られなかった。なるほど、これはおもしろい。前作「春期限定いちごタルト事件」に物足りなさを感じた向きもぜひこの巻まで読んでみてほしい。この巻の結末まで読めば、否応なくさらなる続きが気になるはずである(いっそここで終わってもいい気もするが)。

 今回、「狐」と「狼」という本性を隠して小市民をめざすふたりがいどむのは、〈小佐内スイーツセレクション・夏〉の制覇。他愛ないあそびのように見えたその行為は、やがてある意外な大事件へとつながっていく。

 巻頭の二篇はどちらかといえば小粒な「日常の謎」だが、第四章と最終章では、それまでの展開がみごとに伏線と化して論理の大伽藍を築き上げる。そしてその先に待ち受けるほろ苦い結末は、いかにも米澤穂信らしいしろものだ。

 米澤は多く挫折を描く作家である。現在までに刊行された作品は七篇、その過半数で名探偵の挫折が描き出されている。そしてその挫折はいわゆる「意外な真相」とワンセットになっている。

 名探偵である主人公が、複雑怪奇な事件のからくりを見通したと確信したそのとき、その「真相」の裏にある本当の真実がかれを打ちのめすのだ。そして、その挫折は青春の苦さとも深くからみ合っている。だから米澤ミステリは、本格であると同時に上質な青春小説でもある。

 巻末の解説によると、米澤は「ビルドゥングス・ロマン」を目指すという発言もしているそうだが、いまのところ、かれの作品のキャラクターたちは、人間的成長の一歩手前で足踏みしている状態だと思う。

 とはいえ、古典部シリーズにしろ、小市民シリーズにしろ、まだ物語の完結を見たわけではない。この先どうなるかはなぞのままだ。ほろ苦い挫折体験のその先に、どんな展開が待ち受けているのか、すべてを知るのは作者のみ。

 とりあえず「秋期限定モンブラン事件」(仮題)がたのしみだ。ほんと、シリーズ2作目でこんな展開にしてしまって、どうするつもりなんだろうね。