七王国の玉座〈1〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

七王国の玉座〈1〉―氷と炎の歌〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

 ようやく文庫化。異世界ファンタジーの最高峰「七王国の玉座」第一巻である。

 実はこの「七王国の玉座」自体が「氷と炎の歌」というさらに長大な物語の第一章に過ぎないので、この巻に収められているのは序盤も序盤なのだが、この巻を読むだけでもジョージ・R・R・マーティンの凄さはわかると思う。

 「アルスラーン戦記」や「デルフィニア戦記」、「グイン・サーガ」が好きな向きは、悪いことはいわない、買え。買って読め。さすがに一巻3000円近いハードカバー上下巻を買えとはいいづらかったけれど、文庫化したから堂々と薦められる。

 この手の群像劇としてはぼくがいままで読んできたなかでもベスト、たぶん世界一おもしろい作品だと信じる。海外の作品だからと敬遠したりしないでぜひ手にとって読んでほしい。めくるめく読書体験を約束する。

 まあ、もちろん世界中の群像劇を読みきったわけではないので、世界一というのは誇大な言い草かもしれないが、世界一に立候補する資格はじゅうぶんにあると思っている。

 膨大な数の人物を巧みに操って少しずつ華麗な物語世界を編んでいくその手並みにおいて、これ以上の作品はちょっと考えられない。

 ダン・シモンズの「ハイペリオン」サーガがあれほど話題になったことを考えると、こちらはまだいまひとつ知名度に欠けるが、この文庫化を機により多くの読者の手にわたったら嬉しい。だから買え。買って読め。

 なにがそれほど凄いのか。まず文章力。マーティンの筆はあくまでも緻密に、どこまでも荘重に、冬の七王国を描ききっている。

 ひとつの季節が延々とつづく世界が舞台なので、最初から最後までずっと冬なのだが*1、それはもう読んでいて寒くなるほどの描写の妙である。ぼくらの生活は近代の光のなかにあるが、この小説を読んでいるあいだ、心は中世の闇へ飛ぶだろう。

 そしてその構成力。男性、女性、老人、若者、子供、富豪、貧民、王侯、貴族、騎士、平民、ありとあらゆるひとびとの視点からひとつの壮大な物語を描ききる「語り」の力はまさに圧巻だ。

 しかし、見方を変えればそこが問題でもある。この作品の最大の難点はあまりにも登場人物が多いことだろう。はっきりいって読みはじめてすぐにだれがだれだかわかるようになるひとは少数派だと思う。

 ひとつの家系だけで何人も人物がいるうえに、しばしば祖先の話まで出てくるのだからたまらない。たしかに気楽に読めるような本ではない。それは認める。しかし、人生から貴重な時間を裂いて臨むにあたいする作品であることもたしかだ。

 野心と愛、戦争と策略がうずをまく壮麗なる異世界戦国絵巻。ようするにとんでもなくおもしろい小説なのである。買え。買って読め。

 ところでこの作品、全3章で終わる予定が、なぜか倍の全6章になり、それ以上にのびていく可能性もあるという。どこの国でも長篇作家のやることって同じだなあ。日本語版が最終巻まで問題なく刊行されることを祈る。

*1:最初のあたりは冬じゃなかったかも……。うう、ごめんなさい。