スイス時計の謎 (講談社文庫)

スイス時計の謎 (講談社文庫)

 これも文庫化作品。

 有栖川有栖の国名シリーズ第七弾である。四本の中短篇が収録されているが、やはり表題作「スイス時計の謎」が傑作。このシリーズの前作「マレー鉄道の謎」も悪くなかったが、こちらははっきりと「悪くない」という水準を越えている。

 「学生アリス」シリーズと比べて事件の小粒さがしばしば指摘される「作家アリス」シリーズではあるが、この作品の出来のよさは傑出したものがあると思う。

 ほんのわずかな手がかりから論理的推理を積み重ねていくことによってただひとりの犯人の名前を指し示してしまう展開は圧巻だ。その完成度は決して「学生アリス」シリーズの長篇に劣らない。

 ひとり有栖川有栖の短篇最高傑作という次元を超えて、推理小説そのものの愉楽を思い出させてくれる作品だった。

 まあ、この頃だいぶミステリ離れしているぼくのいうことだからあてにならないかもしれないが、ここ数年の短篇ミステリでは大山誠一郎の「アルファベット・パズラーズ」とならんで感銘を受けた作品である。

 有栖川ミステリがお好みでない方も、表題作だけでも読んでみてほしい。どこまでも論理に拘りぬく本格推理というジャンルのひとつの典型ともいえる一篇だと思う。

 それにしても、まともに小説を紹介したのは1ヶ月ぶりだなあ。もう書評サイトとはいえないかもしれない。最近、小説を読んでいないからなあ。「Something Orange」の寿命も長くないかもね。