その21


 最後に、ぼくの好きな漫画から、長くはなりますが引用したいと思います。石塚夢見「ピアニシモでささやいて」のクライマックス、主人公のコンサート場面から。

 …今夜… 着飾って紅をひいて 3日前にコンサート内容変えるなんて言い出して数十人の人間を汗まみれにさせ お金を払ってくれた人より一段高い所に立ち 自分ひとりが一身にライトを浴びて自己発現する女がいます 同じ夜同じ島の片隅で 生活保障を得るため 自分の足を折り女房の腕を折り子どもの指を切り落とす男がいます すでになんの感情もなく 切り落とす男がいます わたしは傲慢ですか? 男は哀れですか?

 太った体を苦に少女がビルから飛び降りたとき 飢えのため人肉を食わせろと叫ぶ群衆がいる アジアの片隅で枯れ木のようになった子どもが息をひきとった瞬間 同じアジアのぜい肉で肥え太った国の最高権力者はネクタイの色で悩む …少女はぜいたく者? 群集は悲惨? 子どもはかわいそう? 権力者はとんでもないヤツ? …そうかしら?

 「裏切るより裏切られなさい」? 「傷つけるより傷つきなさい」? わたしやーだわ ごめんだわ 裏切ったそいつは一生笑って大往生するかもしれないよ! 傷つけたそいつは過去の罪を悔やんで詫びて 自分だけは救われて成仏するかもしれないよ! 傷を受けたほうはいやされずに命を縮めるかもしれないってのに! 裏切れ! 傷つけろ! 正直やってると大バカ見るわよ!

 「人間皆平等だ」なんておきれいなご意見ね ねえ「天は人の上に人を造らず 人の下に人を造らず」なんて大嘘こいたのだれだっけ? 天は人の上に人を造り人の下に人を造る 真ん中の人間は「憤り」という税金を上の者に払いながら 下の者から「優越感」という我が身の保証を買う だーから世の中うまくいくじゃないのさ 「天は二物を与えず」なんてまあーっ赤な嘘もあったわよね 与えるヤツには10も20も与え 与えないヤツには手垢ひとつ与えない それが「天」とやらよ!

 …わたしずっと思ってた… 20年間信じてた 裏切りを 絶望を 憎しみを 包み込んで足りる「愛」があるって… とんでもなかったね 「愛」って風呂敷そのものに裏切りや憎しみが一緒に織り込まれてるってのにさ… どんなに包み込もうとしたって徒労におわるのが当然だ…

 …わたし… 「緒」を… 切りたくない…! …わたしと…わたしとの「緒」を… わたしと… あなたとの「緒」を わたしとだれかとの わたしとたくさんの人との わたしと世の中との… いままでは切られることが辛かった のたうちまわるほど辛かった… いまは…わたしが切ってしまうことのほうがはるかに恐ろしい…… それは…ボロボロかもしれない ため息ひとつで切れてしまう脆いものかもしれない もしかしたら初めからどこともつながっていないかもしれない… だけど…たとえ向こうで切られても 切りたくはないわ つながっていなくとも放したくはないわ …ひとが… いのちの始まりに ひとと 緒でつながっているように…