その7


 なぜあてにならないのかというと、こんなインタビューがあるんですね。多少長くなりますが、引用しましょう。

 「萌えをどう定義するかが最も難しかった」――信濃研究員は関連文献を何冊も読みあさり、定義を探ったという。「かわいい、愛らしいキャラがいるかどうかが1つの基準になった。ただ、萌え作品かどうかはある程度のコンセンサスがある。肌感覚に頼ったところも大きい」(信濃研究員)。

 アニメについては、4000タイトルの作品リストから「萌える」「萌えない」を判定。宮島副主任研究員に協力してもらい、それぞれのアニメが萌え系かどうかを判断していった。

 萌え市場を子ども向け市場と対比したかったため、一般に萌え作品ととらえられているタイトルでも、子どもをターゲットにした作品は除外した。「美少女戦士セーラームーン」や「ふたりはプリキュア」などは調査の対象外だ。

 こうして推計した萌えアニメの市場規模は約155億円。萌えアニメの数に、1タイトルあたりの平均売上高を掛け合わせて算出した。

 コミック市場は、連載雑誌ごとに対象読者を考え、萌え系かそうでないかを判断した。アニメと同様、子ども向け作品は除外。「魔法先生ネギま!」が連載されていても「週刊少年マガジン」は萌え系ではなく、「コミック電撃大王」や「ドラゴンエイジ」は萌え系――といった具合だ。

 「肌感覚」で決めたということは、ようするに本人の感覚で適当に線を引いたということでしょう。

 企業の調査としてはあまりにいいかげんなようですが、先述したように「萌え」ということばには明確な定義はありませんから、ある程度はしかたないことともいえます。

 ただ、この888億円というもっともらしい数字にはあまり意味がないとはいえると思います。したがって、そこからはじき出された「1兆円以上」という数字も意味がない。

 ようするに「オタク」とか「萌え」の市場がどのくらいのものかは、よくわからないのが現状のようです。だからこそ「2兆円市場」などという、いくらなんでも誇大と思われる計算も出てくるわけです。

 個人的には、本田さんが主張しているようにハードウェアまで数字に含めることには反対です。たしかにパソコンを「萌え」を楽しむために使用しているひとは多いでしょうが、そうでないひとはもっと多いわけで、それを加えてしまうともうほとんどなんでもありになってしまうように思います。

 おもしろいのは、恋愛資本主義の欺瞞を攻撃してやまない本田さんが、「萌え」メディアの資本主義的発展には肯定的であるように見えることです。

 こういった数字から「オタクは企業に踊らされている!」という結論が出てもおかしくないと思うのですが、そういう方向には話が向かいません。本田さんが思想的洗脳に基づく消費拡大を善と考えているのか、それとも悪と捉えているのかは、よくわかりません。