その6


 今回はちょっとわき道に逸れて、「萌え」の経済的側面について話してみましょう。本田さんは、「電波男」でも「萌える男」でも、一貫して「萌え」作品の市場が拡大していることを主張しています。

 「萌える男」では、第一章の一行目から、「萌え」市場は2003年の時点で888億円に成長しているという浜銀総合研究所の発表が引用されています。

 そしてかれはそれを踏まえたうえで、この調査では同人誌や同人ソフト、またメイド喫茶などの2・5次産業、ハードウェアなどがカウントされていないから、じっさいには1兆円を突破しているはずだ、と語っています。

 また、そのあとの32ページでは、堀田純司によるノンフィクション「萌え萌えジャパン」のサブタイトルから「2兆円市場」ということばを引いて、「浜銀総合研究所よりも「萌え萌えジャパン」が扱った対象のほうがより広範囲であるから」こういう数字になったのだ、といいます。

 そしてまた一方、「電波男」には野村総研の調査によるとオタク市場が二千九百億円にのぼっていると記述してある個所があります。

 ここでも本田さんはそれはあまりに対象を限定した調査であるとして、ライトオタクまで含めたじっさいの数字は8000億円にのぼるだろう、と付け足しています。

 888億円、2900億円、8000億円、1兆円以上、2兆円――なんだかあまりにもバラバラな数字ですが、これはひとつには「萌え」や「オタク」ということばに明確な定義がないことに原因があります。

 浜銀総研の888億円という数字はかなり狭く定義を絞ったうえのものですが、野村総研の調査ではアイドルマニアや自作PCマニアも数に含められています。

 これは、「萌え」や「オタク」ということばを拡大解釈していけばいくらでも数字は大きくなるということを意味しているように思えます。まあ、だから、そもそも正確な金額なんてものは求めようがないわけですね。

 しかし、それにしても、経済的な数字にかんする本田さんの意見はわりといいかげんです。なんだか毎回文句ばかり書いているようで恐縮してしまうのですが、でもそうなんだからしかたない。

 どうも本田さんとしては、数字が大きくなるぶんには多少いいかげんな計算であっても問題ないという感覚らしい。じっさいには1兆円以上と2兆円ではとんでもなく大きなひらきがあるわけですが、これくらい大きな数字になるといずれにしろ実感がわかないのも事実ではあります。

 まあ、「電波男」の記述はあくまでネタであるということで看過してもかまわないかもしれません。「お、俺はよう、俺はそろばん一級なんだよう! 足し算引き算は大の得意なんだよう!」とか書いているし。

 しかし、「その5」で述べたように、「萌える男」のほうはネタではすまないでしょう。この本の最初で本田さんが引いている888億円という数字は、個人的な見解ではあまりあてにならないしろものです。