「グイン・サーガ」第107巻。

 物語はいったんグインから離れ、カメロン、リンダ、レムス、イシュトヴァーン、ヴァレリウスら群像たちのいまを追いかけていく。

 今回の見所はリンダによるパロ再建事業のくだりでしょうか。ぼくはリンダというキャラクターにほとんどなんの興味もありませんが、内戦の痛手が癒えぬパロで女王として即位し、だれひとり頼る者もないなかで懸命に働く彼女のすがたはちょっと感動的です。

 たしかに、内戦によって夫をも、弟をも、国をも失った彼女が、それでも文句ひついうことなく、健気に努力するすがたを見たら、ぼくでもこの女性のためになにかしてやろうと考えるだろうと思う。

 ましてそんな彼女から「あなたの力が必要なの」とひと言いわれたら、粉骨砕身して働くことも厭わないだろう、という気がします。

 臣下の者にそう思わせるのがいわゆる君主の器量というやつで、思えばレムスにはこれが決定的に足りなかった。

 レムスは、ひとに頼むということができなかった。頼めばやってくれるはずだという自信をもつことができなかったのでしょう。だからいたけだかに命令することになり、それがまた反感を呼んだ。

 ほんとうはかれだって決して嫌われているわけではないのだから、「いまのぼくは力が足りないから、頼む」とひと言いえば、あいては感激してかれのために働こうと思っただろうに、それができないんだよね。

 ようするに人間を信じていないのです。逆にいえば、自分に人間から愛されるほどの価値があると思っていない。ここらへん、宿敵として憎んでいたナリスとよく似ています。ナリスはあたまがいいからその疑心をオブラートにくるむことができたという差があるだけです。

 ここらへんの自己評価を巡る問題は、「グイン・サーガ」の、というより栗本薫の全作品の根幹にあたるものです。いずれ機会があったらそれについても書くかもしれません。

 さて、この巻の中盤ではひさしぶりにリンダの預言が登場します。この預言によると、廃王レムスはいずれふたたびその額に王冠を戴くことになるらしい。

 いや、いままでの伏線からすればそうなって当然で、レムスは「闇王朝パロス」というあたらしい国家の王として君臨することになるはずなのですが、それでもちょっとおどろいた。

 これほど国家を荒廃させたレムスが、いったいどうやってふたたび即位することになるのでしょう。注目です。

 栗本薫は「グイン・サーガ」の数百年後を舞台にした「トワイライト・サーガ」という小説を書いているのですが、この時代ではその闇王朝パロスが中原を支配しています。

 たとえば田中芳樹の「アルスラーン戦記」が基本的に国家の近代化プロジェクトの物語であるのに対し、「グイン・サーガ」では文明の頂点はむしろ三千年前のカナン帝国にあり、いまはいずれ闇へ沈む宿命のたそがれのなかにあるのです。

 ここらへんは、田中芳樹栗本薫の作家性の違いとして興味深いものがありますが、それはまた別の話。