範馬刃牙 1 (少年チャンピオン・コミックス)

範馬刃牙 1 (少年チャンピオン・コミックス)

範馬刃牙 2 (少年チャンピオン・コミックス)

範馬刃牙 2 (少年チャンピオン・コミックス)

 みんな大好き「バキ」シリーズの第三弾です。

 このシリーズは既に「グラップラー刃牙」全42巻、「バキ」全31巻と膨大な巻数を数えているわけですが、ここから読みはじめても問題ありません。

 その場合、憶えるべきことはひとつです。「範馬勇次郎というとんでもなく強いキャラがいる」。まあ、ほかのキャラと勇次郎のあいだには超サイヤ人ヤムチャくらいの実力差がひらいていると思ってください。

 これがさほど大袈裟な表現じゃないんだから恐ろしい。とにかくこれだけ憶えればあなたもあしたから「バキ」通。いっしょにこの大傑作を楽しみましょう。

 格闘漫画を通り越してギャグ漫画になった漫画はほかにもありますが、ギャグ漫画も通り越してなんだかよくわからなくなっているのはこの作品くらい。不世出の傑作というしかありません。

 でもまあ、できれば「グラップラー刃牙」の第一巻から読んだほうがいいだろうけどね。やっぱり最大トーナメントがいちばんおもしろいし。

 さて、前作「バキ」は主人公の刃牙(これでバキと読むのです)が無謀にも父範馬勇次郎に挑戦したところで終わっていました。

 かつての最大トーナメント優勝者であり、現時点での世界最強のひとりでもある刃牙ですが、自他ともに認める「地上最強の生物」である勇次郎に比べればあまりにも無力。いったいどうなるんだと思わせての新シリーズ開幕です。

 で、結論からいうと、どうにもなりませんでした。今回も勇次郎は圧倒的な存在感を見せています。なにしろ冒頭から登場し、物理的にありえそうもない巨大生物を倒してみせるのですから凄まじい。タイトルを「範馬刃牙」から「範馬勇次郎」に変えたほうがいいんじゃないか思うくらい。

 それに対してわれらが刃牙は想像上のカマキリなんかと遊んでいるありさま。どうなっているのでしょう。この瞬間にも勇次郎は強くなっているんだぞ。広大な宇宙がさらに膨張するように!

 いったいどうやって刃牙を成長させるつもりなのか、注目が集まります。いや、ほんと、むりだと思うんだよな、刃牙を勇次郎クラスまで成長させるの。刃牙が勇次郎に勝てるわけないじゃん。

 このシリーズ、たしかに荒唐無稽には違いないのですが、しかし現実とは無関係の架空世界の出来事として読むなら、意外に論理は通っていると思うんですよね。

 「バキ」を貫く世界観として、「武術」と「暴力」の対立があることは以前書きました。「武術」とは後天的に身につける技術、「暴力」とは先天的に持って生まれた能力です。

 したがって、生来的に物凄く強い人間は「武術」を習得する必要はないことになります。「武術」とは生まれつき弱い人間が身を守るための術なのです。

 とはいえ、究極的にいえば「武術」と「暴力」は必ずしも衝突しません。「武術」の道では究極的にはたたかう必要も勝利する必要もないからです。たたかいを避けて逃げ回るだけでも安全でいることはできますよね。

 それを象徴的にあらわしているのが、渋沢老人の護身術で、かれは武術をきわめた結果、自分より強いあいてに出逢いそうになるとなんらかの障害(閉ざされた門とか)が見えて警告するようになります。

 ここでたたかいを避けるなら護身が達成されるわけですが、「強さ」への欲を捨てきれないかれは危険が待っていることがわかっていてもたたかいの舞台へ立つことになります。

 また、勇次郎とたたかった中国武術界最強の「海皇」は、一時的に仮死状態に陥るとことによってたたかいを避けます。

 このように、「武術」とは卑怯といえば卑怯なものです。これに対して勇次郎が代表する「暴力」はシンプルです。それは自分の欲望を押し通すための力なのです。

 よって、この世界では最もわがままでエゴイスティックなものが最も強い。最強である勇次郎が好き勝手にふるまうのは当然といえるでしょう。

 バキが勇次郎に勝つとすれば、かれのその価値観そのものを否定しなければならない。でもね、むりですよね。どう考えても。なにしろこれまでの70巻を越えるエピソードのなかで、勇次郎のエゴは極限にまで肥大化してしまっている。

 対して、刃牙はなんだか影が薄くなってきているように思えてなりません。そりゃ高校生としては世界一強いかもしれないけどね。というわけで、いったいどう続くのか、どう終わるのか、さっぱり見当がつかない漫画ではあります。予想を外せばいいというものでもないけれど。