その4


 ちょっと前に「コミログ」というブログの「石舘通信『失踪日記』ロングレビュー」という記事が話題になったことがありました。

 タイトルからわかる通り、吾妻ひでおの「失踪日記」のレビューなのですが、その内容があまりに的外れだということで批判が殺到したわけです。具体的にどんな内容なのかちょっとぬき出してみましょう。

『実体験』の魅力は何といっても『リアリティ』です。
作り物じゃない、著者が自分自身で体験した、貴重な出来事
なのですから。
裏を返せば、それが無いのなら作り話で良いわけです!

それなのに、リアルに思い出すと辛いからなのか、内容が
グロくなるからなのか、自分の画のタッチに合わないと思った
からなのか、コミカルなタッチにする事でその一番の醍醐味を
自ら放棄してしまっているわけですね。

ちょっと考えれば分かる通り、これはとんでもない事です。

ハンバーグ抜きのハンバーガーです。

新郎新婦のいない披露宴です。

地味な格好の叶姉妹です。

安全運転のF1レースです。

ポケットの無いドラえもんです。

 いやあ、たったこれだけの引用でもちょっとまずいんじゃないかという気がしますよね。同じことを書くにしても、もうすこし表現を選んでいたらこれほど大騒ぎにはならなかったと思うんですけど、なにを思ってこんな挑発的な書きかたをしたのでしょう。

 まあ、ぼくも時々やらかすから、あまり偉そうにひとを指弾できる立場ではないのですが、それにしても、ね。

 ぼくも天才ギャグ漫画家時代の吾妻ひでおについては詳しくないので(だって、ぼくがSFに目覚めた頃にはほとんど入手できなくなっていたんだもん)、評者が吾妻ひでおのキャリアについて無知であることを責めようとは思いません。

 すべての漫画を読みつくすわけにはいかない以上、ある分野について知識が不足するのはどうしようもないことでしょう。しかし、それを考えに入れても、やはりこの批判はあまりにも一面的な見方に過ぎないように思えます。

 この漫画において、コミカルなタッチとリアリスティックなテーマのギャップがあることは、読んだひとならだれでも気がつくことでしょう。

 しかし、ふつうはそこで「ああ、これは、ふつうならリアルにやるところを、あえてコミカルな絵柄で描いているのだな」と考えるわけです。それをどう評価するかはひとそれぞれでしょうが、まあ、一般的にはこう考えると思う。

 ところが、このレビューは、「こういう話はリアルな絵柄でやるべきなのに、コミカルな絵柄でやっている。全然ダメ」と短絡してしまっている。やっぱり的確なレビューとはいいがたいでしょう。

 しかし、まあ、この場合は表現が過激だったので話題になりましたが、このくらい的外れなレビューはネット上にはほかにもいくらでもあるようにも思えるのです。