ページをめくれば (奇想コレクション)

ページをめくれば (奇想コレクション)

 小さい頃は 神様がいて 不思議に夢をかなえてくれた やさしい気持ちで目覚めた朝は 大人になっても 奇蹟は起こるよ

 「奇想コレクション」の第八弾はゼナ・ヘンダースン。日本では連作短篇の〈ピープル〉シリーズの二冊で知られる作家である。恩田陸がこのシリーズへのオマージュとして「光の帝国」を書いたことを知っているひともいるだろう(ぼくは未読)。

 個人的にこの叢書には、スタージョンとデイヴィッドスンが大あたり、ベスターは意外と普通、ビッスンは正直よくわからん、という感想を抱いているのだが、このゼナ・ヘンダースンもあたりだった。すくなくともぼくにとってはとても好きになれそうな作家だ。

 収録作は十一篇。いずれ劣らぬ傑作ぞろい――というほどではないにしろ、キュートで、リリカルで、ハートウォーミングな作品がそろえられている。

 ヘンダースンの作家としての特徴は、教師という職業を活かしているのだろう、こどもを主役にすることが多いところにある。じっさい、この短編集に収められた十一作品中、「グランダー」と「鏡にて見るごとく――おぼろげに」を除く九作品がなんらかのかたちでこどもを扱っている。

 そして、この作家はこどもの描写がでたらめに巧い。ヘンダースンの描くこどもたちは、決して無垢なばかりの天使ではなく、かといって意地悪なばかりの小悪魔でもない。おとなとには理解しがたい個性をもった、愛らしくもやっかいでふしぎな生きものである。

 その腕のほどを知るためには「しーッ!」を読んでもらえばいい。「こども絡みの空想がなぜか現実になってしまう」というアイディアは、この「奇想コレクション」のなかだけでも、スタージョンの「影よ、影よ、影の国」やデイヴィッドスンの「グーバーども」があるが、ヘンダースンの巧みさは際立っている。

 ある主婦がこどもを通して敵側の異星人と仲よくなってしまう「小委員会」もいい。平和を希求する祈りの深さが胸にのこる。

 もっとも、きょうの目で見ると(いや、当時の目で見てもそうかも)ここらへんのモラルはいかにも素朴だ。この素朴さを鼻持ちならない偽善的道徳観と見るひともいるだろう。現実はそれほど甘くないとせせら笑う向きもあるかもしれない。

 しかし、ぼくは好きだし、この作家と出逢えてよかったと思う。ゼナ・ヘンダースンは善意の作家であり、そういう作家の作品を読むのは気持ちいいものだ。

 とはいえ、だからといって彼女の作風を甘く見ていると、軽快に滑り出した物語が、あっというまにアンハッピーエンドへ落ちていくのを見せられて、呆然とすることになるかもしれない。

 「しーッ!」や「ページをめくれば」のあまりにも苦い結末は、この作家が教師として経験したであろうさまざまな挫折を連想させるものがある。きっといろいろなことがあったのだろう。ある意味で、この短編集はその経験の結晶ともいえるかもしれない。