Q.E.D.証明終了(23) (講談社コミックス月刊マガジン)
- 作者: 加藤元浩
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/03/17
- メディア: コミック
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現代ミステリの最先端を漫画形式でひた走る「Q.E.D」最新刊。
この連載も長いなあ。第一巻が出たのは98年の12月。七年間にわたって純粋な本格作品を書きつづけているわけで、この持続力は評価されてもいいのではないでしょうか。ふつうならとっくに息切れしていそうなものです。
しかもこの作品の内容はひじょうに多彩で、「日常の謎」から雑学ネタ、漫画の形式を利用した叙述トリック(!)まで、じつにさまざまな作品が生み出されています。
今回、この巻に収録されているのは二篇。数学界の超難問「リーマン予想」に憑かれた数学者の失踪のなぞのいどむ「アナザー・ワールド」と、豪華クルーザーで起きた殺人事件を描いた「ライアー」。どちらもシリーズの水準以上の佳作だと思います。
「アナザー・ワールド」では、ふだんはいやいや事件にかかわることが多い燈馬くんが、めずらしく自分からなぞを追いかけていきます。
ここでは抽象的な数学の世界を異世界(アナザー・ワールド)に例えて、寓話的なかたちでその魅力が語られているのですが、本来、燈馬くんはこの異世界の住人であるはず。なぜ「こちら側」にとどまって名探偵などしているのか、そちらのほうがふしぎです。
このシリーズは短篇形式で物理的ななぞを合理的に解き明かしているのですが、最大のなぞは天才であるかれが世界をどうみているかということなのかもしれません。
とにかくまあ、数学とトリックの絡め方は、昨年、数学ミステリとして話題になった「容疑者Xの献身」以上に巧みだと思うので、この方面に興味がある方は読まれてみるとよいかと思います。このシリーズ、数学を扱った作品ははずれがないですね。
そして「ライアー」なのですが、これは密室状況での犯人当てを精緻なロジックで綴った作品です。いまの漫画業界で、この水準のフーダニットを描けるのはこのひとくらいのものでしょう。
ただ、このロジック、微妙におかしいと思うんですね(以下ネタバレ。真相について明かしています)。
「はじめ被害者は死んだふりをしていただけだった。そのとき、容疑者全員が犯人と思われる状況を作るために五回刺した人物が犯人」というのが、この事件の真相です。
しかし、容疑者全員犯人説を浮上させるためには、刺し傷を五つも作ってはいけないのではないでしょうか。なぜなら、かれは既に被害者のからだに刺し傷があると思い込んでいるはずだからです。
その状況で五つ刺し傷をつくれば、あわせて五つ以上の刺し傷ができてしまう(と思い込んでいるはず)。そう考えると、犯人の行動はちょっと不可解です。まず傷をたしかめるのが自然なのでは。なにか勘違いしているかな。まあいいや。
ちなみにこの本と同時発売で燈馬くんのいとこを描いた「C.M.B(1)」という作品が刊行されていますが、こちらのトリックは相当に無理がありますね。そんなややこしいことするなよ、と思ったことを記しておきます。