荒野の恋 第二部 bump of love (ファミ通文庫)

荒野の恋 第二部 bump of love (ファミ通文庫)

 いまどき、こんな小説はないだろう。ため息がもれるほど、繊細で、端正で、古典的な少女小説である。

 桜庭一樹は、いままでになく柔らかな文体で、山之内荒野の十三歳を綴っている。幼い恋をはぐくみはじめた荒野のうえを、春が、夏が、秋が、冬が、通り過ぎていく。

 少年の告白、継母の妊娠、はじめてみたアダルトビデオ、さまざまな経験が、少しずつ、少しずつ、少女を変える。そしていちど変わったなら、にどと元に戻ることはない。その、しずかな迫力。

 それにしても、第一部から第二部への、この作品性の飛躍はどうだろう。

 たしかに第一部も秀逸な小説だった。十二歳の少女の宇宙が、ほうぼうで破綻しながら膨張していく、そのさまには、惹きつけられるものがあった。

 しかし、第一部と第二部では、世界を創ることばのあざやかさが違う。第一部の刊行から第二部の発表まで僅か九ヶ月、そのあいだに桜庭一樹の腕前はあからさまにレベルアップしている。

 仮名と漢字、句点と読点が生み出すメロディの、うっとりするような滑らかさ。本当に巧い作家になったものだ、とあらためて感嘆する。

 「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」の、あの、うったえかけてくるような力強さはここにはない。しかし、おなじ精神が、はるかに洗練されたかたちで、べつの物語を形成している。素晴らしいとしかいいようがない。

 第三部では、十七歳の荒野と出逢えるという。そのときがくることを楽しみに、いまはこの本をおくことにしよう。