てのひらの迷路

てのひらの迷路

 石田衣良の初掌編集。

 とびきりみじかい物語と、ひとつひとつの物語にかんする作者自身による解説が、あわせて二十四篇、収録されている。

 解説によると、この本に収められた作品の幾つかは、締め切りに追われていきおいまかせで書いたという。そのせいか、いつもの作品より作者と小説の距離が近いようにおもう。

 さいしょの一篇は母を亡くしたときの経験をもとにしているというし、さいごの一篇はエッセイそのもの。カーテンコールでよびだされた役者のように、わかれの挨拶をしてみせている。

 その二篇に挟まれたのこりの二十二篇はバラエティゆたかで、ショートショートならではの痛快なおもしろさにみちている。読者はストリートを気ままに散歩するように、かってな順番で読んでいくことができるだろう。

 正しい読みかたではないかもしれないが、そんな不埒をゆるす自由さが、掌編集にはある。

 収録作のなかからベスト3をえらぶなら、「旅する本」、「レイン、レイン、レイン」、「コンプレックス」といったあたりになるだろうか。

 タクシーの運転手との会話をそのまま小説のかたちに仕立てた「タクシー」もいいし、ちょっとめずらしい才能のもち主を描いた「ウェイトレスの天才」もおもしろい。

 気がるに読めて、気がるにたのしめる、ちょっとおすすめの本である。何百ページもつづく大迷宮に飽きたなら、このてのひらの迷路へどうぞ。