荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)

「痩せるのは、ダイエットすれば、痩せる。でも太ったって胸は出てこないぞ」
「あ、うん……」
「すなわち、スレンダーは秀才。巨乳は天才。荒野、おまえはいま、天才への道を歩き始めたのさ。……ほら、入るぞ」

 山野内荒野、12歳。

 ある日、とつぜん、恋におちる。

 この作品は、彼女の恋ともいえないような幼い恋をえがいた長編小説である。

 もちろん、ぼくが読んだのは三部作の第一部に過ぎないから、第三部あたりでどうなるかは知らない。だがとりあえずこの第一部で綴られる荒野の恋はとてもやわらかく、初々しく、瑞々しい。

 からだの成長だの、生理痛だの、はじめてのブラジャーだの、想像もできない事柄が頻出して戸惑うが、これこそ上質の少女小説というものなのだろうか。なんでこんな本がファミ通文庫から出ているのか、よくわからないけれど、素晴らしい。

 なにより桜庭一樹の文章はやはりおもしろい。するすると流れる文章のなかに唐突にはさまれる読点、文語のなかであたりまえのように澄ましている口語、幼いこどものように饒舌かと思いきや、突然寡黙になるテンポ、書けそうで書けない、強烈な個性をもったスタイルだ。

 第二部ではこの巻で荒野へ旅立ってしまった少年がもどってくるはずである。そのとき、荒野のこころはどう変わっているのだろう。つづきが気になる、良い結末である。