火目の巫女 (電撃文庫)

火目の巫女 (電撃文庫)

読了。

 仮りにだね、おまえが最後において、人間を幸福にし、かつ平和と安静を与える目的をもって、人類の運命の塔を築いているものとしたら、そのためにただ一つのちっぽけな生き物を――例のいたいけな拳を固めて自分の胸を打った女の子でもいい――是が非でも苦しめなければならない、この子供のあがなわれざる涙なしには、その塔を建てることができないと仮定したら、おまえははたしてこんな条件で、その建築の技師となることを承諾するか? さあ、偽らずに言ってくれ!

 条件は厳格で絶対だ。その子には、ひとことの優しい言葉さえ掛けてはならぬことになっている。

――アーシェラ・K・ル・グィン「オメラスから歩み去る人々」

 遥かな古、あるいはどことも知れぬ遠い世界の、とある国の物語である。

 その国の平和は化生と呼び習わされる化物たちによって脅かされていた。化生の脅威はひとの手には負えず、それを退治しえるものは、都にあって化生を弓討つ〈火目の巫女〉ただひとり。

 生まれ育った村を化生に滅ぼされた伊月は、その素質を認められて火目の候補となるが、彼女の行く手には、火目の真実とこの国の成り立ちを巡る、意外な運命が待ち受けていたのだった――。

 第12回電撃小説大賞銀賞受賞作。この上に金賞受賞作があり、大賞受賞作があるわけだが、ともかく文字通り何千という作品のなかから選ばれた一作であることは間違いない。ほかの無数の作品を蹴落とすだけの力がこの小説にはそなわっていたことになる。

 しかしまあ、選考委員のめがね違いということもあるから、さてどれほどのものかと思って読みはじめたわけだが――うん、まあ、面白い。

 タイトルと表紙だけを採ると、巫女委員会のひとつも設立されそうな萌え小説に見える。しかし、その実、そんな和やかさにはほど遠い過酷な物語が続き、非情な結末に繋がることになる。

 たぶん、この結末をどう評価するかによってこの作品そのものの評価が決まってくるだろう。個人的には、少し唐突な印象を受けた。もちろん伏線は張られており、まるきり意外というわけでもないのだが、作品前半と後半のバランスがやや悪い気がする。

 この小説は構造上、前半のエピソードの積み重ねが、後半の急展開を支える形になっていなければならないはずだ。しかし、じっさいには、前半の比較的和やかなエピソードと、後半での怒涛の展開のバランスが少々崩れているように思う。

 具体的にいえば、前半のエピソードの印象が薄い。仲間でもありライバルでもある少女たちの関係に、あとすこし深みがあれば、全体の印象も変わってきたのではないか。

 文章は涼やかさがあって心地いい。今後に期待の作家である。ということにしておくか。とりあえず。