まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

 山本弘のSF短編集。

 「奥歯のスイッチを入れろ」、「バイオシップ・ハンター」、「メデューサの呪文」、「シュレディンガーのチョコパフェ」、「闇からの衝動」、そして表題作「まだ見ぬ冬の悲しみも」の六篇を収録。

 異色のホラー小説「闇からの衝動」を除くと、いずれもクラシックなまでに正統なサイエンス・フィクションである。単純な着想から出発しては異形の論理を組み立て、読者を異次元へといざなう。

 ただ、今回は、作品の根幹をなすアイディアそのものは特に独創的ではなく、過去のSFで何度となく取り上げられてきたものばかりだ。

 「奥馬のスイッチを入れろ」の加速装置、「バイオシップ・ハンター」の生体宇宙船、「まだ見ぬ冬の悲しみも」のタイムマシン――ジャンルSFの読者ならば、おなじ着想から生み出された作品の名前を、いくつもあげることができるだろう。

 しかし、山本SFの魅力は、そのアイディアから組み立てられる論理の精緻さにある。400倍の速度で動く超人を描く作家はほかにもいるだろう。しかし、400倍に加速された世界で物理現象がどう働くのか、これほど克明に描写できる作家はさほど多くないはずだ。

 ひとつ難をあげるなら、作品の中核をなす価値観のあまりの素朴さだろうか。山本の小説世界では、どんなに論理の冒険を繰り返されても、さいごにはいたって朴訥なモラルに帰着してしまう。僕のような読者にとっては、それがいかにも物足りないのである。