ARIA 8 (BLADE COMICS)

ARIA 8 (BLADE COMICS)

 時が停まる瞬間がある。

 なにか美しいものに出逢ったとき、あるいはたとえようもなく幸福な一瞬、ひとの意識は時間のながれをせき止めて、かけがえのないその瞬間を焼きつける。「ARIA」は、そういった停止した時間を集めた作品である。

 その舞台は遥か未来の火星(アクア)。この時代、火星はテラフォーミングがすすみ、人間が住める環境がととのっている。一方で、作品には登場しないものの、地球(マンホーム)は汚染され、純粋な自然はあまりのこされていないことが示唆されている。

 主人公は水没したヴェネツィアを再現したネオ・ヴェネツィアで、ウンディーネとよばれる水先案内人を務めている。まだ半人前で、その技量は未熟だが、あたりまえの日常のなかに美しいものを見つけ出す感性はきわだっている。

 物語は、彼女がすこしずつ成長しながら、火星での暮らしに慣れていくさまを、ゆっくりとしたテンポで綴っていく。

 作中のネオ・ヴェネツィアは純粋な人工世界であるはずだが、なぜか不思議にはことかかない。異邦人である主人公の視点から、この街が再発見されていく過程が本作の見所だ。

 意外な出来事が連続する波乱万丈の展開は、ここにはない。しかし、しっとりとした雰囲気と、美しい絵が読者を魅了する。

 短篇連作の形を採ってはいるが、作中の火星で、時間はたしかに過ぎていく。あるいは、過ぎ去る時間のペースを巧みに操る技こそが、この作品の最大の魅力なのかもしれない。