「エルリック・サーガ」復刊(刊行予定→2006年3月の新刊)

 野にさらされた頭蓋骨のごとき肌の色。肩の下まで垂れる長い髪も乳のように白い。細面の美しい顔にはつりあがった真紅の目がならび、暗く沈んだ眼差しを投げかけている。ゆったりとした黄色いガウンの袖口からは、これもまた骨のような色の細い手が二本つきだし、巨大なルビーをそのまま彫刻した玉座のひじかけに置かれている。

――「メルニボネの皇子」

 遂に、遂に、遂にこの日がやって来た。マイケル・ムアコックの傑作ヒロイック・ファンタジーエルリック・サーガ」、待望の復刊である。

 この作品がヒロイック・ファンタジー史上に冠絶する大金字塔であることは、いまさらいうまでもない。しかし、ときのながれは余りに早く、しばらく前からこの名作も入手困難の状況が続いていた。それがいま、未訳のシリーズ新作と供に刊行されるというのだから、これ以上のニュースはないだろう。

 新装版では過去の全8巻が合本されて全4巻にまとめられ、そのあとに新作「夢盗人の娘」、「ストレイリングの樹」、「白き狼の息子」が続くというかたちになるようだ。

 新作が読めるのはどうも年末から来年のことになりそうだが、なに、もう何年待ったかわからないのだ、かまうものか。

 ただ、従来は第1巻と第7巻に収められていた「メルニボネの皇子」と「真珠の砦」が一冊にまとめられるというのは、多少違和感がないこともない。

 時系列的には「真珠の砦」はシリーズ最終巻「ストームブリンガー」以前の物語にあたるから、物語の順番としては不自然ではない。

 しかし、執筆時期に隔たりがある「メルニボネの皇子」と「真珠の砦」では世界の雰囲気がだいぶ違っているので、一冊に容れてしまうとあたらしい読者は違和感を抱くのではないかという気もする。

 具体的にいうと、「真珠の砦」ではこの物語の最大の特徴である頽廃美がだいぶ薄まっている。この作品のなかで、エルリックは、一時とはいえ、つねにその腰に帯びていたはずの〈黒の剣〉ストームブリンガーを手放しすらするのだ。

 そう、「エルリック・サーガ」の最大の魔力は、エルリックと魔剣ストームブリンガーとの倒錯的な依存関係にある。

 みずからの意思をもつ魔法の剣であるストームブリンガーは、ときにエルリックの意思を裏切って、かれの親しい人間を刺し貫く。しかし、生まれつき病弱で麻薬の助けなくしては歩くこともできないエルリックは、どうしてもこの剣を捨てることができない。

 エルリックは魔剣を憎みながら愛し、ともに旅をつづける。そしてその運命は、世界そのものの命運と深くかかわる悲劇的なクライマックスへと突き進んでいく――。

 はじめてこの小説を読んだのは中学生のころ、「アルスラーン戦記」や「ロードス島戦記」が好きな朴訥な少年(笑うな)にとって、その昏く美学的な世界はあまりにも印象深かった。

 それから十数年、いまようやくメルニボネの白子と再会できるようだ。多元宇宙を支配する〈運命〉の計らいをよろこびたい。