- 作者: TONO
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2005/12/24
- メディア: コミック
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エキュー・タンタロット。
カルバニア一の大貴族タンタロット公爵の令嬢にして、次期公爵候補。
その性格は自由奔放、その行動はやりたいほうだい、思うまま、望むまま好き勝手に生きる彼女こそはこの「カルバニア物語」のヒロインであり、ヒーローだ。
「カルバニア物語」記念すべき第10巻は、そのエキューに意外な展開がおとずれる長編エピソード「エキューの春」を収録。
「いきなりですが 私はそろそろ〝恋人のいる人生〟に突入することにしようと思うの」なんてことを親友(で女王)のタニアにいいだしたエキューと、なにやら行動が怪しい「パパ」ことタンタロット公爵を巡って、コミカルでシリアスな物語が続く。
もともとこの作品はファンタジーという殻の下で、女性の自立をテーマにしているところがあった。
なにかというと「女なんだから」とか「女のくせに」といいだす周囲の男性に呆れながらも奮闘するエキューやタニアは、まるで現代のOLである。今回のエピソードはそのテーマの集大成ともいえるかもしれない。
ただ、注意するべきなのは、決してエキューはすべてを超越したスーパーヒーローではないということ。
その時どきに応じて男装して冒険したり、女装してパーティーに出たりする彼女は、ある意味でジェンダーを超越したキャラクターといえる。
しかし彼女はそれと同時に欠点だらけの人間でもあるのだ。
たしかにカルバニア一の美貌ではあるし、剣を取っては無敵だし、公爵家の後継ぎでもあるが、ストレスがたまると酒場で暴力をふるうわ、なにかあるとすぐにタニアに泣きつくわ、ほんと、迷惑といえば迷惑な奴なのである。
しかしもちろんその欠点だけでもない。ようするに彼女は長短のバランスのとれた生身の人間ということだ。
そのエキューが苦労したり努力したりしながら(ついでに暴力をふるったりののしりあったりしながら)少しずつ周囲の信頼を勝ち取っていくさまは感動的だ。
このような物語を書くとき、いちばんかんたんなのは、エキューのまわりの男性を悪役に仕立て上げて、彼女がそれを乗り越えていくというパターンにすることだろう。
しかし、作者はその方法を採らない。
エキューの周囲の男性たちは、たしかに頑固なところもあれば、無理解な側面もある一筋縄ではいかない連中ばかりだが、たんなる悪役ではまったくない。
エキューとおなじようにかれら独自の価値観をもち、人生を背負った生身の人間たちである。
エキューはかれらに「女なんだから」といわれると怒るけれど、よくよく考えてみれば、彼女もまたハゲだなんだと散々ののしっているのだからおたがいさまである(-_-;)。
そんなエキューと男性たちのバトルは、この巻でひとまずの決着を迎える。甘いといえば甘い結末ではあるだろう。しかしぼくはこの展開が好きだ。
ただひとり気の毒なのはエキューの恋人ライアン公爵だけれど――まあ、規格外の人間を好きになったのだからあきらめてもらうしかないだろう。気の毒に。