「眺めのいい静かな部屋」読了。

 ある養老院を舞台にした軽快なショート・ミステリ。

 うーん、巧い。さりげない発端から巧妙な人物描写、そして突然の急展開から皮肉な落ちまで、じつに細かく神経がいきとどいている。

 例によって結末はそれほど意外ではないんだけれど、そこらへんはあまり気にならない。そこで勝負する作家ではないのだろう。

 コミカルな老人たちが揃っているので、浦沢直樹あたりが漫画化したらおもしろい気がする。

 しかしこのひと、商業的には生涯成功にめぐまれなかったらしいんだけれど、なにが悪かったのかなあ。

 どの短編もシニカルで、ユーモラスで、凝りに凝っていて、つまりまあ、おもしろいのだ。

 もちろん悪文といわれるその文章が翻訳の段階で矯正されている可能性はある(なにしろ、浅倉久志をはじめとして、日本SF業界最高の翻訳陣が訳しているのだ)。

 しかし、それにしても、これほどの作家が生涯無名で終わったとは哀しい話(賞はたくさん受賞したらしいけれど)。

 良い小説が売れる小説ではない、とはよくいわれることだけれど、アヴラム・デイヴィッドスンこそ、その哀しむべき実例といえるかもしれない。

 まあ、たしかにわからないこともない。デイヴィッドスンの小説は、あまりに凝りすぎている。そして、どれもジャンル小説のお約束から逸脱しすぎている。

 SFとかミステリとかファンタジーとか萌えとかボーイズ・ラブとか、そういうひとつのジャンルにくくりきれない「へんな小説」なのだ。

 まさに異色作家のなかの異色作家。のこり三篇が楽しみだ。