「物は証言できない」「さあ、みんなで眠ろう」「ラホール駐屯地での出来事」読了。

 アヴラム・デイヴィッドスンというのは奇妙な作家だ、とあらためて思う。「尾をつながれた王族」や「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」を読んだとき、ぼくはこの作家の個性の一端を掴んだ気がした。

 つまり作品のなかにその本質を直接えがきこまず、間接的に想像させる技巧を得意とする書き手なのだ、と。だからこそ通好みの作家という地位に終わったのだろう、と。

 しかし「物は証言できない」や「さあ、みんなで眠ろう」では、無力な弱者への共感がこれ以上ないほど率直に表現されている。

 「物は証言できない」の結末はタイトルを見た瞬間に予想できるくらいシンプルだが、それでいてそこにこめられた想いの激しさは読むものの心を打つ。

 そして「さあ、みんなで眠ろう」。これは遠宇宙の見知らぬ惑星を舞台にしたSF小説だが、SFということがはばかられるほどあからさまな寓話になっている。

 極端な率直さとまわりくどさ――どうやら、その両方がこの作家のなかでは息づいていたらしい。とらえどころのない作風というしかない。

 「ラホール駐屯地での出来事」は技巧冴えわたる推理小説。枠物語の構成がみごとな効果をあげている。

 たぶん欧米の読者はこの結末に、ぼくたちが山田風太郎「黄色い下宿人」を読んだときのような驚きを感じるのだろう。ぼくには正当に評価しきれない作品といえる。