ブルータワー

ブルータワー

 読了。

 石田衣良は自分がなにを書いているのかよく知っている作家だと思う。

 作品の目的が明確で、それに沿ってスタイルとストーリーが選ばれている。

 もちろん、だからいつも成功するとはかぎらない。しかし、少なくとも目標を見誤って迷子になることはなさそうだ。

 この小説の場合、あとがきにある「現実世界の南北問題とテクノロジー占有を、高さ二キロの塔の垂直問題にシンボリックに圧縮」するという言葉が的確に内容をあらわしている。

 主人公は精神だけ未来へタイムスリップするから、その意味ではSFなのだが、SFとして読むとあまり新味がない。「風の谷のナウシカ」を読んだほうがよほどいいだろう。

 ここで注意するべきなのは、石田の視線があくまで現代社会にそそがれていることだ。かれはたしかに未来を描く。しかしそれは現代の縮図としての未来である。

 たぶんかれは未来社会のオリジナリティにあまり関心をもっていない。

 だから「ブルータワー」の未来社会より、「アキハバラ@DEEP」や「池袋ウエストゲートパーク」のストリートのほうがはるかに「未来的」にすら見える。

 「ブルータワー」はSFだが、SF作家が書いたSFではない。センス・オブ・ワンダーはないが、問題提起がある。

 いろいろな意味で、まさに石田衣良らしい一作。