「小説ドラゴンクエスト5」。これのどこが「時間を移動するお話」だというひともいそうですが、いやいや、この巻にはちゃんと時間旅行ものの要素が入っているのですよ。

 このお話の主人公であるリュカは、あるとき、うしなわれたゴールドオーブをさがすため、過去の世界へと舞い戻ることになります。そしてそこで亡くなった父パパスと、幼いころの自分自身に会うのです。

 リュカはここで、恐ろしい誘惑に襲われます。いまの自分なら、過去を変えることができる。自分を庇って倒れる運命のパパスを救うことも、長く辛い奴隷生活を送らなければならない自分自身を助けることもできる。

 しかし、それは決して赦されないことでもある。その行為は世界そのもののありようを壊してしまう――。

 けっきょく、リュカは過去をそのままにしておくことを選び、未来の世界に戻ってくるのですが、かれの人生が過酷なものであるだけに、その部分の描写はとても重いものがあります。

「戻ってきたのですね」
 ポワンの安堵の声が届き、リュカは無事に運命を成し遂げたことを知った。ほっとすると同時に、身を噛む悔恨に打ちのめされて、彼はその場に頽れた。双子を招かずにおいてくれたポワンの優しさを噛みしめながら。いま一度、いまだけは。
 二十年前の少年を思って、彼は、泣いた……。

 「小説ドラゴンクエスト」全編でも一、二を争う泣けるシーンなのではないでしょうか。ちなみに「5」はこのシリーズでいちばん出来の良い作品だと思います。おもしろいよ。