バビロンまで何マイル? (白泉社文庫)

バビロンまで何マイル? (白泉社文庫)

 第1回のテーマは「時間を移動するお話」。

 超能力やらタイムマシンやらで時間のなかをあちこち移動してまわるお話を、二三取り上げようと思う。

 最初は「教授」川原泉の断筆前の作品「バビロンまで何マイル?」、単行本では未完のまま放り出され、文庫版でようやく完結したといういわくつきの作品である。

 ぼくはリアルタイムで読んだわけじゃないけれど、連載時はそれはそれは少しずつしか掲載されなかったらしい。そしてこの作品を最後に川原は長い沈黙の時期に入る。寡作の天才の数少ない長編なんですね。

 主人公はこどもの頃、沼で溺れているノームを助けた高校生のコンビ(-_-;)、かれらはお礼に魔法の指輪をもらい、その力で過去の世界へ旅することになる。

 はじめは恐竜時代へ行ったりするのだが、それはほんのプロローグで、メインはつぎの中世イタリア。

 凸凹コンビはそこでチェーザレ・ボルジアと出逢い、かれのイタリア征服戦争にまきこまれることになるのだった――と、書くといかにもシリアスなお話みたいだけれど、そこは川原泉、コミカルなトーンを崩さない。

 チェーザレは最後には野望やぶれて破滅していく運命だし、チェーザレとルクレツィアの赦されざる恋なんて重そうなテーマも絡んでくるんだけれど、それでもふしぎと重くならないんだよなあ。

 それでいて歴史考証は案外正確な上、いやみにならない程度に衒学的でもある。こんな漫画がかけるのは世界でこのひとだけだろう。少女漫画の長い長い歴史が生んだワンアンドオンリーの作家、それが川原泉なのである。どうだ、おそれいったか。