真っ向勝負のスローカーブ (新潮新書)

真っ向勝負のスローカーブ (新潮新書)

 読了。

 「遅い直球とスローカーブとフォーク。この三種の持ち球だけで、歴代16位、2041の奪三振を記録した細腕左腕、星野伸之」(Amazonより)が、自身の勝負術を明かした一冊。イチローや落合、古田などのエピソードも記されていて、楽しいです。

 僕はプロ野球ファンでもなんでもありませんが、この手の解説本はわりと好きで、よく読みます。小学校のころから読んでいたような記憶がある。スポーツの現場における、当事者にしかわからないような高度なかけひき、微妙な勝負、そういうものはやはりおもしろい。

 この本を読んでいると、プロ野球の投手というものが実にいろいろなことを考えて投げていることがわかります。ただ速球が速ければ、あるいは変化球がよく曲がればいいというものでもないらしい。

 一球一球にブラフがあり、トラップがあり、そして勝負がある。ストレートで逃げることもあれば、スローカーブで真っ向勝負することもある――その奥深さ。

 で、この本を読んでいて考えたのが、鑑賞する側にもはやりレベルというものがあるということ。僕の野球の見かたなんて幼稚なもので、勝った、負けた、打った、打ち取られた、ああ逆転した、とかその程度のレベル。

 投手と打者の微妙な心理戦がどうこうなんてことは、まあ解説されればべつですが、さっぱりわからない。だから、たとえば10対0なんて点差になって、試合の趨勢が定まると、もうおもしろくもなんともない。

 でも、もっと見る目があるひとなら、僕が気付かないような細かい部分を見逃さずに楽しめるはず。「そうか、いまの2球目のシュートは最後のフォークへの布石だったのか! 凄え!」みたいな。

 こういう細部がわかればわかると、多くの試合を楽しく見れるようになるのではないかと。まあ、「魚住の隠れた好プレイ」を牧が見のがさずチェックしているようなものですか(「SLAM DUNK」ネタ)。

 で、おなじことは小説でも映画でも絵画でもいえると思うんですね。知れば知るほどおもしろくなるし、また守備範囲も広くなっていく。小説でいうなら、読むほどに作家の細かい技がわかるようになっていくということ。

 小説の魅力は必ずしも物語ばかりではないわけです。まあ、骨太のストーリーで勝負するひともいるだろうけれど、そういう作家でも、めったに意識されないような細かいところに技を披露していたりする。そして、そこを読み取れるかどうかで、その作品をたのしめるかどうかが決まることもある。

 だからマニアの話というのは往々にして細部に淫するものになる。「この台詞、ここであえて読点を挟むのが凄いよな」とか(笑)。ふつうの人はそのどこが凄いのかさっぱりだったり。

 まあ、だからマニアが偉いというものでもありませんが、そのことをだれが聞いてもわかるくらい丁寧に説明できるなら、それだけでその人は一流の解説者といえるでしょう。そういう意味で、この本も素晴らしい良書だといえます。おすすめ。