ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)

ある日、爆弾がおちてきて (電撃文庫)

 読了。

 古橋秀之待望の新刊は、ライトノベルでは非常にめずらしい短編集。はてな界隈ではとても評価が高い本なのですが、なかみのほうもそれにふさわしいハイクオリティ。

 最盛期の梶尾真治に匹敵するか、もしくは上回る出来といっても過言じゃない。ボーイ・ミーツ・ガールに時間ネタを絡めて、じつにリリカルでセンチメンタルな物語世界を生み出しています。

 収録作中のどれがベストかということは意見がわかれるところですが、ぼくなら「出席番号0番」を選ぶかな。「貸金庫」*1を第三者視点からえがくというアイディアの秀逸さもそうだけれど、その小説的処理のうまいことうまいこと。

 極限まで削り込まれたウルトラライトな文章ながら、決めるところはきっちり決めていて、隙がない。SFではじめてラブコメで落とすこのスマートさはもはや円熟の境地。古橋くんも若い頃はずいぶんヤンチャをしたけれど、こんな立派な作家になるなんて、先生、感激しちゃったよ。*2

 また、ジョン・ヴァーリイ「バガテル」を思わせる(いや、むしろ星里もちるの「危険がウォーキング」か?)表題作は、葉鍵系のゲームが大好きなあなたにもおすすめできるピュアで切ないラブストーリー。京都アニメーションに映像化してほしいくらい。

 id:CAXさんの調査によると、一番人気は「むかし、爆弾が落ちてきて」らしいけれど、ぼくとしてはこれは、「おもしろいけど、やっぱり「美亜へ贈る真珠」と比べると――」というジジイ系の感想になる。

 そもそも、このお話、なにかごまかされている気がするんだよね(以下ネタバレ)。

 これ、チャットでも話したんだけど、全身が一度に同じ時間スピードになるような描写はおかしいんじゃないかな。「停滞空間」の上のほうが、ものが入るくらい「柔らかい」ということは、その部分の時間の進みかたが外界に近いということだと思う。

 したがって、足を踏み入れた個所から、少女のいる個所に近づくにつれ、時間の進み方はどんどん遅くなっていることになる。ということは、外界からそこに足を突っ込んだら、その足はだんだんより遅い時間に浸っていくことになる(なるよね?)。

 それなら、頭や上半身をその「停滞空間」のなかに突っ込むよりも早く、足の底だけがはるかに遅く時間が流れる空間へと進んでいき、外界からみたらまったく動いていない状態になるんじゃないか。

 つまりこの冒険好きの少年は、足をその空間に入れたままの状態で何十年か待たないかぎり、全身をそこに入れることはできないんじゃないか。――と思うんだけど、うーん、まだ考えが足りない気がする。あまり自信がないので、ツッコミ頼む。>おーる。

 ま、とにかくよくできた短編集なので、おすすめです。新生古橋のヒストリーはここからはじまる――かな? はじまるといいな、と心から思います。

*1:グレッグ・イーガン「祈りの海」収録。

*2:でもまたヤンチャ系も書いてほしいです。