鬼の橋 (福音館創作童話シリーズ)

鬼の橋 (福音館創作童話シリーズ)

 読了。

 少年時代の小野篁(おののたかむら)を主人公にしたジュヴナイル小説。篁は平安時代に活躍した実在の人物で、才気に優れ、この世界と冥界を行き来したという伝説がのこされているらしい。

 この物語のなかでも、かれは鬼たちが巣くう冥界の入り口に迷いこむ。そこでかれを待ち受けていたのは、3年前に亡くなった征夷大将軍坂上田村麻呂。篁はたびたび田村麻呂に助けられながら、すこしずつ大人へと成長していく。

 冒頭、最愛の妹を死なせてしまった罪の意識をかかえてさまよう篁は痛々しい。内気で、繊細で、なにもかもかれに頼ってばかりだった義妹。そのかよわい存在は少年の心をつよく惹きつけ、未熟な自尊心をささえていた。

 彼女を喪ったあとにのこされたものは、罪悪感と虚無感ばかり。命を惜しむ気持ちさえ褪せはてて、篁はただひとり放浪する。非常に重苦しいオープニングだ。

 このあと、篁が妹の死を乗り越えていくだろうことはわかる。しかし、どんなに成長したところで、亡くしたものは戻らない。だから、物語の色調はあくまでも暗い。

 ただ、この暗さは、ある意味で、懐かしい暗さともいえる。だれもが少年時代の闇をくぐりぬけておとなになるのだから。その闇を思い返してみれば、そこには不安という名の鬼が巣くっていたようにも思える。

 もちろん、いつまでもその闇のなかに立ちすくんでいることはできない。少年はやがては鬼のすむ闇を乗り越えていくものだからだ。自分の悩みばかりに心奪われていた篁は、やがて他人を守って生きていくことを知る。

 おとなにもこどもにも推薦できる少年小説の秀作である。