飛鳥井全死は間違えない

飛鳥井全死は間違えない

 読了。

 「Sense Off」のシナリオにより、僕のなかで殿堂入りした元長柾木の初長編小説。セカイ系というかファウスト系というか、まあそっち系のお話。そして初長編がこれでいいのかと頭を抱えるほど愛想を欠いた小説でもある。

 素直に感情移入できるキャラクターはひとりも登場しない。サービス精神ゼロ。むしろマイナス。なにしろ主人公にしてからが殺人が習慣の男である。こんな奴、どうやって好きになればいいものやら。

 はてなをまわったところ、西尾維新戯言シリーズ」と似ているといわれることも多いようだが、この主人公はいーちゃんよりさらに冷ややかだ。殺人という形でセカイに干渉しながら、そのことになんの感慨も抱いていないようにみえる。

 まあとにかく一般的な意味での娯楽性をいちじるしく欠いた小説なので、それを求める向きは手出し無用です。僕はわりとおもしろかったけれど。

 元長柾木は、いままでもっとエンターテインメント性の高い現場で作品を発表してきた。ここでいうエンターテインメントとは、「枷」であり「枠」だ。

 本来、無限に自由な想像力をあるフレームのなかに押し込むことで、一定の娯楽性を獲得する、そういうものだ。SFでもミステリでもファンタジーでもラブコメでもボーイズ・ラブでもそれは変わらない。

 そして、この作品はある意味でそのフレームから解き放たれている。フォーミュラー・フィクションの約束に従っていない。自由な作品だ、ともいえる。しかし僕はやはりもうすこしポップな作品を読みたい。

 それは凡庸と同じ意味かもしれない。しかし、僕はこの自由な小説より、ありふれたギャルゲーのフォーマットを流用した「Sense Off」のほうがはるかに好きだ。

 そこには元長の才能が形式とぶつかりあうことから生まれるおもしろさがった。またそういうものを読ませてほしいんだけれど、無理かなあ。元長柾木だからなあ。