恋するA・I探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

恋するA・I探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 読了。

 ティムに「チューリング・テストってなんだい?」ときかれた日のことをわたしはおぼえている。
「どうして?」とわたしは尋ねた。「それがどうしたっていうの?」あのころのわたしは、自分は感情を持っているとはっきり口に出すことにためらいがあった。チューリング・テストという考えそのものが恐ろしかったのだ。もし落第したらどうする?

 チューリング・ホッパー。職業:人工知能パーソナリティ(AIP)。勤務先:〈UL〉社。趣味:新しい料理のレシピを考えること。ただし、才能なし。性別:女性。ただし、肉体なし。ドナ・アンドリュースが生み出したチューリングは、ミステリ史上初のAI探偵である。

 古今東西のミステリをインストールされた彼女は、AIなりのやり方で、行方不明の開発者ザックの行方をさぐろうとする。しかし、彼女はネットに接続されたあらゆる情報を操作できる一方、現実世界にアクセスするすべをもたないのだった――。

 ふむ、このひとの本を読むのははじめてですが、なかなか巧い書き手ですね。続編が出たら買おうと決めるくらいにはおもしろい。

 ただし、SF的にもミステリ的にも目新しいものはほとんどありません。あくまでもチューリングに萌えながら読むキャラクター小説。チューリング・テストに落第したらどうしようと怖がるAI! 萌えすぎる。

 たぶんリアリティを重視する現代SFの感覚ではここまでヒューマンなAIを生み出すことはむずかしいでしょう。こんな高性能のAIの用途がたかが現行のOSの代用品なんだもんなあ。

 超無能な上司のもとで働く超有能な秘書のモードとか、ハードボイルドオタクでチューリング人工知能であることをどうしても信じようとしないティムとか、脇役のキャラクターも抜群。

 息をもつかせぬ大傑作というようなものではないけれど、ライトでコージーな秀作です。わりとおすすめ。