- 作者: 連城三紀彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2000/07/19
- メディア: 文庫
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読了。
連城三紀彦はもちろん著名な作家である。直木賞作家でもあるし、作品のテレビドラマ化/映画化は数知れない。かれの作品を読んだことがないひとでも、名前くらいは知っていることだろう。
しかし、対象を若いミステリファンに限定すると、おどろくほど読まれていない作家でもある。「本格ミステリファン度調査」によると、本書を読んでいるひとの数は300冊中290位と恐ろしく少ない。
だが、これほど切れ味鋭い推理短編集は稀だと思う。表面はいかにも日本らしくじめじめとした恋愛や不倫の話ばかりなので、そこが推理小説の読者には避けられるのかもしれないが、その中身は綾辻行人も顔負けの曲芸小説。
殺人の容疑をかけられた男が、そのとき別の女を殺していたアリバイを主張する「夜の右側」も良いが、白眉はなんといっても七人の男女のそれぞれの視点からの告白が戦慄の結末をうむ「喜劇女優」だろう。
いやあ、これはすごい。あきれるほどすごい。考えるだけならほかの作家でも考えるかもしれないが、ぬけ抜けと書いてしまうのは連城三紀彦くらいのものだろう。
現代の新本格作家の作品でもちょっとお目にかかれないくらいトリッキーな奇想を、すさまじいまでの超絶技巧で語りきっている。途中で趣向は読めるんだけど、「まさか」と思ううちに結末までたどり着いてしまう。
しかもどこがどうすごいか語るだけでネタバレになってしまうので、読後はただ沈黙するしかないのだ。いつか表にしてまとめてみたいと思わせる作品である。いや、読めばわかるんだ。読めば。