猫泥棒と木曜日のキッチン

猫泥棒と木曜日のキッチン

 読了。

 よい小説だ。とても、よい小説だ。「毛布おばけと金曜日の階段」もたしかに悪くはなかった。しかし、これはそれよりはるかに良質な作品だと思う。

 恋。猫泥棒。地獄の詰まった箱。青い瞳。マルセイユ式ルーレット。そして木曜日のキッチン。すべてがあるべきところにあり、一枚の絵を形づくっている。その絵の題名は「日常」。これは、どこにでもある、しかしすこしだけ奇妙な日常を綴った物語である。

 川原みずきは17歳。突然いなくなってしまった母親にかわって家事を切り盛りしながら、5歳のコウちゃんと暮らしている。木曜日になると、一ヶ月前に知りあったばかりの少年、健一もいっしょに食卓をかこむ。ちょっと変わっているけれど、幸福な家庭。

 この日常生活をえがく橋本紡の文章は、どこまでも上品で格調高い。もともと巧い書き手だとは思っていたけれど、この作品では凄みすら感じる。

 特にめずらしいレトリックを弄しているわけではない。あたりまえの日本語をあたりまえの順番でならべた、ただそれだけの文章なのに、ちょっとないほど爽やかな印象を受けるのはなぜだろう。

 あえて欠点をさがすなら、主題と挿話をむすぶ線がわずかに直線的すぎる気がする。ひとつひとつのエピソードが、あまりにもわかりやすすぎる。しかしまあ、そんなことは、たとえ瑕であるとしても、些細な瑕である。

 文句なしにおすすめできる上質な青春小説であり、家族小説だ。ライトノベルが生み出した最高の成果のひとつといってもいい。派手な物語はまるでないが、これほど純度の高いただの小説は、めったにない。