Θ(シータ)は遊んでくれたよ (講談社ノベルス)

Θ(シータ)は遊んでくれたよ (講談社ノベルス)

 読了。

 Gシリーズ第2弾。

 このシリーズにはS&Mシリーズ全十作に続いて犀川創平と西之園萌絵が登場する。しかし、今回、かれらは作品構造の中心的位置にいない。

 物語は無数の視点を通して語られ、そのたびにその人物の人格の指向性によって揺らぐ。まるで異なるレンズを通したように、ひとつの事件、ひとつの世界は微妙に異なる姿を見せる。そこにこのシリーズのひとつのおもしろさがあるといえるだろう。

 主に事件の解説者を務めるのは、絶対に視点人物にならない海月及助である。しかしかれの役割は通常の推理小説における「名探偵」とは異なっている。ほとんどの名探偵と異なり、かれの知的立場は特権的なものではないのだ。

 実際、徹底的に無口であることもあって、多くの場合、かれは群像に埋没している。事件がクライマックスに至って、はじめてその個性は表に出てくる。それ以外のとき、かれが何を考えているのか、だれも知らない。それもまた、ひとつの謎だ。

 本作の物語はそのほとんどが事件とその謎を巡る対話である。からだのどこかに「θ」の文字を書かれて死亡したいくつかの死体、その共通項は何か? ひとつのシンプルなミステリを巡りくりひろげられる展開は、非常にソリッドな印象をあたえる。

 ある意味では、これほど純粋な「推理」小説は少ないだろう。しかし、この物語はこれ単体で閉鎖しない。物語のカーテンが降りるとき、事件はひとまず終わるが、謎は続いていく。どこへ続いているのか? それは、まだ作者しかこたえを知らない秘密である。