扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

 読了。

 殺人の舞台は、成城のある広壮な洋館。その一室で伏見亮輔は後輩の新山和弘を殺害した。新山をバスタブに沈めたあと、ドアにトリックを仕掛け、扉を閉ざす。密室殺人完成。物語はそこから始まる――扉は閉ざされたまま。

 これは密室がとざされたまま物語がすすむ異形の推理小説なのである。探偵役の碓氷優佳は、この限定的な状況下で純粋に推理によって殺人事件をあばきたてていく。

 超高速で推理を組み立てていく優佳と、事態の進行を操作しようとする伏見。優れた頭脳をもつふたりのあいだで、壮絶な頭脳戦がはじまる。

 はじまるのだが、これが案外、物足りない。緊迫感は十分、しかしそもそも伏見には優佳の推理を止めるためのカードがほとんどのこされていないのだ。

 かれにできることは、ミスを犯さないようにしながら推理が進まないことを期待することだけ。自然、ゲームの趨勢は一方的なものになる。結果として、探偵の個性だけが強く浮き上がり、ほかの人物は背景に埋没する。

 読者にしてみれば、視点人物が一方的に敗れ去っていく過程を見せられるわけで、ちょっと居心地が悪かった。夜神月がだらしない「DEATH NOTE」というか。

 また、もうひとつ文句をつけるなら、詰めのロジックがちょい弱い。優佳はまず動機を推測し、その動機から演繹してフーダニットをこころみている。一見するとこの推理は妥当にみえるのだが、前提である動機の推定に根拠がない以上、その後の論理も成立しないはず。

 うーん、僕の評価はもう半歩で傑作にとどかなかった問題作、というところかなあ。しかし今年の本格の話題作のひとつであることはまちがいないでしょう。