時の声 (創元SF文庫)

時の声 (創元SF文庫)

 読了。

 SF小説の「ニューウェーヴ」を先導したJ・G・バラードの第一短編集。「SF作家もいいかげん外宇宙とかそういうダサいのは卒業しようよ」といって共感を得たり反発を買ったりした人です。

 最近ではSF作家というより現代文学の重鎮というイメージですが、この頃のバラードは現役バリバリの「革命家」。この本はかれがその創作哲学の実践版ともいえるでしょう。これがまた凄いんだ。

 収録作は七編。いずれもなんらかの形での死と破滅を取り扱っています。なかでも表題作「時の声」は冷たくも美しい傑作。

 1日の大半を昏睡状態で過ごすようになった研究者、その反対に睡眠を奪われた男、かれが書きつらねる謎の数字、研究者が飼っている奇形の動物たち――といった一見無関係な要素が、結末にいたってひとつの荘厳なレクイエムを奏でる。

 ある意味ではカタストロフィ・テーマの小説でもあるんだけど、「インディペンデンス・デイ」的なスペクタクルは一切ない。バラードの宇宙では、世界は波にさらわれた砂の城が崩れるように静かに滅んでいくのです。

 だからスペクタクルを期待してその小説を読むと(そんなひとはいないだろうけど)、肩透かしを食うはず。しかし、バラードの案内する「内宇宙への旅」は、最高の宇宙SFにまさるとも劣らない静謐な感動にみちみちています。

 バラードが人間を見つめる視線には、たとえばスタージョンのそれのようなあたたかさや優しさは微塵もない。そこにあるのはひたすらに怜悧な知性だけ。この肌触りの冷たさが癖になるんだろうなあ、きっと。