リアル (4)

リアル (4)

 今週も井上雄彦「リアル」がおもしろい。二十歳そこそこの若さで病に倒れ、そのまま身動きもできず死んでいくしかないヤマの様子は、これまでこの物語のなかでえがかれた最も絶望的な人間の姿だ。

 病魔はどこまでも陽性で前向きに見えていた彼の人柄までも冒していく。そんななかでも清春はあくまでもかれの友人として向き合おうとする。心震わせるリアル。

 いっぽう、交通事故により下半身の自由を奪われた高橋は、あいかわらず一筋の光明もみいだせないままあがいていた。カウンセリングでは本心を話せず、リハビリをすれば子供にも笑われる始末。

 作品の性質上、いつかは車椅子バスケにたどり着くのだとおもうが、その日はまだ恐ろしく遠そうだ。辛く圧倒的なリアル。

 高橋といえば、僕は第3巻に収録された彼の独白がいまも鮮烈に記憶にのこっている。

「西高の高橋―― バスケ部キャプテンで成績も上位キープ 仲間達から一目置かれ 他校の女たちにもけっこう名を知られてる感じ そこそこ悪いこともやって―― 家庭の事情はある 両親は小学4年のとき離婚した でもよくある話 もともとは幸せな――エリートサラリーマンの家に生まれ育ったことに変わりはねえ ABCDE―― 俺のランクはA 最低でもBより下ってことはねえだろう (幻想だそんなもん…) リアルな俺は 立つこともできねえ役立たず」

 さまざまな才能にめぐまれた高橋は、いままで自分をヒエラルキーの上位に位置づけてきたのだろう。ABCDE――自分のランクはA、最低でもBより下ということはない。それが彼を支えてきたプライド。

 しかしその誇りは事故によって粉々に打ち砕かれる。絶対的に思えていた自信は、半身の自由を奪われただけでなくなる幻想だったのだ。

 そのさまを見て、僕は思う。ランクってなんだろう? ヒエラルキーってなんだろう? だれだってひとより多くのものを手にいれようとする。

 良い面貌、良い成績、良い高校、良い大学、良い就職、良い収入、良い恋人、良い伴侶、良い住居、良い家族――もっと「良い」ものを求めてやまない。

 そして自分より上の人間を羨み、下の人間を蔑む。なぜ人間はこうまで他者を見下そうとするのだろう? 結局のところ、やはりこの世には「勝ち組」と「負け組」がいるのだろうか?

 もしそうなら、もう自由に身動きすらできないヤマは最底辺の人間で、オリンピック代表候補の清春はもっと上ということになる。しかし清春はそんなヤマを尊敬してやまない。それはなぜだろう? この話、続きます。