読了。

 あるとき、お父さんが亡くなった。ショックに耐え切れなかったお母さんは心の病院に入り、お姉ちゃんは金曜日になると毛布おばけになってしまうようになった。そしてあたしは、同級生の女の子に恋している――。

 ライトノベルには珍しい普通小説である。幽霊も、魔法も、ロボットも、異世界も、なにも出てこない、日常のひとこまをあざやかに切り取って差し出しただけの作品。

 こういう「薄口」の小説では、ほかの派手な分野の作品以上に、作家の技量が問われる。素材は世間にありふれたものを使うのだから、包丁さばきが勝負なのだ。

 正直、この小説にはそれほど期待していなかったのだけれど、いや、これ、悪くないなあ。文章力は、それほどでもない。よい文章とは音楽的なものだ。メロディアスな文章もあれば、リズミカルな文章もある。

 橋本紡の言葉遣いは、まだ文字にメロディを奏でさせるところまではいっていないと思う。これが森絵都あたりだと、なかみなんて何もない話でも言葉の涼やかさを楽しむだけで十分もとが取れたりするんだけど。

 でも、この人には、ひごろ出逢ってもなかなかうまく捉えられないものをきれいに言葉にするセンスがある。たぶん、それは「感受性の鋭さ」ってやつなんだろうけど、ぼくが道端で出逢っても気付かずに通り過ぎてしまうようななにかを、うまく捕まえている。

 作者の日記によると、セールス的には不調で、シリーズを続けられるかどうか微妙なところらしい。これは書いてほしいなあ。書けば書くほどうまくなるだろうし。いまはかみ合っていない部分がぴったり合うポイントが、どこかにあるはずなのだ。