スローグッドバイ (集英社文庫)

スローグッドバイ (集英社文庫)

 再読。

 なにか軽いものが読みたくなって、石田衣良の恋愛小説短編集「スローグッドバイ」を読み返してみた。20代の男女の恋にかんする10本の短編を、花束のようにまとめた本。

 たぶん、頭の良いひとなのだろう、石田衣良は作品ごとにスタイルも雰囲気もがらりと変えてくる。この本に納められた10本の短編は、いずれも柔和な雰囲気で、センスよくまとまっている。

 猥雑な生活感が魅力の「池袋ウエストゲートパーク」とは対照的な作品集といえる。それであざとさがただよわないのは、世界を見つめる視点がひくいからかもしれない。

 作家にもいろいろなタイプがある。高みから世界を見下ろす作家、低い場所から見上げる作家。石田衣良は後者のやり方を選ぶことが多い。

 たとえば「You look for me」は、自分を醜いと信じる女性「あひるの子」に恋した男の物語。かれは彼女のコンプレックスを、笑い飛ばすでなく、見下すでなく、ただ優しく包み込もうとする。

 非現実的な都会の御伽噺。そうかもしれない。しかし、ときに現実は小説家の想像を上回るほどドラマティックな真似をやらかす。恋愛小説はすこし甘すぎるくらいが、ちょうどいいのではないだろうか。

 石田衣良独特のしゃれた言い回しはときに気障すぎて苦笑いしてしまうけれど、まずは美しい短編集だ。ベストを選ぶなら、「夢のキャッチャー」かな。予想外のハッピーエンドが微笑ましい。