読了。

 すべての物語には始まりがあり、終わりがある。いいかえるなら、はてしない時間の流れから、語るべき一瞬を切り取ることこそ、「物語る」ことであるといえる。しかし、本当は始まりのそのときのはるか前から、物語はつづいているのだ。

 したがって、優れた視力をもつ語り手なら、始まりのかなたを見通して、そこへいたる物語を綴ることもできるはずである。桜庭一樹には、できた。

 「GOSICK」シリーズ第5冊めは灰色狼ヴィクトリカと久城一弥の出逢いをえがく番外編。このシリーズの愛読者なら、「プロローグ」で始まり「序章」で終わる目次をみて微笑を禁じえないだろう。すべてはここから始まるのだ。

 愛読者でない方へむけて説明しておこう。物語の舞台は第二次大戦前夜、西欧の小国ソヴェール。なぞの理由で学園の幽閉されている天才少女ヴィクトリカが、日本からの留学生久城一弥とともに、さまざまな難事件に立ちむかっていく。

 ジョン・ディクスン・カーの影響を強く受けた推理小説ではあるが、端的にいってトリックにごく他愛ない。冒険小説として読むべき作品だろう。

 その雰囲気はライトノベルというよりジュヴナイルに近く、キャラクター小説としてみた場合も、いまひとつ弱い。また、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」の強烈な作家性はここにはなく、普遍性が高いぶん、個性を欠く印象がある。

 名探偵のヴィクトリカは典型的な傲慢/奇矯型名探偵の美少女版。いつもレースとフリルを山ほど使用したドレスを身につけ、顔に似合わぬ毒舌を吐いて久城一弥を困らせる。この物語の最大の謎は、彼女の服はいったいだれが洗っているのかということだろう。

 ためらいの欠片もなくかわいさだけを追求した、ある意味壮絶なキャラクターだが――どこか決定打を欠くことは否めない。あまりにも典型的すぎるのかもしれない。

 こう書いていくと、ほとんど褒め言葉が出てこないのだが、すくなくとも僕にとってはおもしろいシリーズである。江戸川乱歩の「少年探偵団」ものと同じく、どこかに少年の日の異郷と冒険への憧れをくすぐるものがある。

 おそらく、あとひとつ何かが加われば飛躍的に進歩するのではないか。そう思わせる作品である。あとひとつ――それが、むずかしいのだろうけれど。

 ところで、表紙のヴィクトリカたんは、あんよが大きすぎると思います。