射鵰英雄伝 DVD-BOX 1

射鵰英雄伝 DVD-BOX 1

 テレビドラマ版「射雕英雄伝」第3巻を観る。おもしろ〜い。もっとチープなものを想像していたんだけれど、そんなことはない。映画並みとはいわないまでも、十分視聴に耐える映像。

 ひとが空を飛び、剣が風を斬ることがあたりまえの世界なので、その常識になれていない視聴者は戸惑うかも。でも、すくなくとも「宮廷女官チャングムの誓い」よりはおもしろいはず。

 この巻からは、物語の舞台がモンゴルから中国に戻り、剣戟に加えて謀略戦が見所になってくる。もちろん実直一本槍のわれらが郭靖(かくせい)くんでは、そんな陰謀は手に余る。

 そこで登場するのが本編のメインヒロイン、黄容(こうよう)。頭脳明晰、武術一流、料理の腕前は天才的――と三拍子そろったスーパー美少女である。

 そこで終わっていれば普通にかわいい女の子なのだが、金庸のヒロインの常で、ゆすりたかり強盗くらいまでならなんとも思わずやってのける非常識な性格の持ち主でもある。

 なにもかも郭靖と正反対の彼女だが、どういうわけか郭靖に惚れこんで、終生彼の忠実な恋人として献身することになる。

 たぶん、この郭靖と黄容のペアは金庸武侠小説史上最高のひと組だろう。たがいにたがいの欠点を補いあい、やがては中華帝国とその民を守る英雄にまで成長していくのだが――それはまだ遠い未来の話。いまの時点では、うら若く微笑ましい相思相愛の恋びとたちにすぎない。

 このふたりの出逢いの場面はそれはもう印象的だ。一途で健気な一面もあるものの、本質的には小悪魔の黄容は、田舎者の郭靖をばかにして、ひと財産まきあげようとする。

 かれの金で平然と高級料理をテーブル一面に並べ、冷めたといってはろくに手をつけず下げさせる始末。あげくのはてには郭靖が乗る汗血馬をほしいといいだすのだが――。

 ちなみにこのときの黄容は男装して身分を偽って近づいているので、べつに郭靖は美貌に騙されたわけではない。ここらへん、黄容を演じる女優もじつにキュートな演技をみせている。全体的に女性陣は美人ぞろいで、観ていて楽しいと思う。

 しかし今回の最大の見所は、郭靖たち若い世代ではなく、18年前に引き裂かれた夫婦の再会のドラマだろう。ここらへんは第1巻冒頭の展開から直接につながっている。

 18年前、牛家村で離ればなれになった楊鉄心と包惜弱は、この巻で運命的に再会し、ふたりで破滅へとひた走る。しかし、よりいっそう切ないのは、18年間に包惜弱を助けて以来、彼女を妻としてあつかってきた金の王子、完顔洪烈である。

 中国の北方を支配する金の王子として何不自由ない身の上の彼ではあるが、たったひとつ包惜弱の心だけは手に入らない。物語上では敵役であるものの、決して小人物ではなく、なんとなくしんみりと感情移入してしまうキャラクターだ。

 かれが夫と逃げる惜弱に、「18年間、私はあなたに誠実だったはずだ。その私の気持ちはどうでもいいのか?」と問い詰めるシーンには、「うんうん、まったく」とうなずくほかない。

 しかしそこが恋の不条理。惜弱はかれに感謝はしても、かれを愛しはしない。18年も親切にされていれば、いいかげん情にほだされそうなものだが、そうはならないのが金庸作品。

 というか、武侠小説に登場する愛憎は、全体に日本人の想像を絶して激しい。「水に流す」なんて概念、この世界には存在しないんだよなあ。

 さて、次の巻ではいよいよ武林最強の「五絶」が登場する。こいつらがまたいままでの登場人物に環をかけて凄まじい性格をしているのだが――。以下次回。