E.G.コンバット (電撃文庫 あ 8-1)

E.G.コンバット (電撃文庫 あ 8-1)

 読了。

 id:kim-peaceさんにもらって、上越新幹線のなかで読んだ1冊。「イリヤの夏、UFOの空」の秋山瑞人のデビュー作(らしい)。

 数多くのファンが「最終巻が出なィィィィィ!」と絶叫していることは知っていたので、完結するまで放置しておく予定だったけれど、圧力がかかったのでしかたなく読む。なるほど、なかなかおもしろい。

 物語の舞台は21世紀中葉。なぞの存在「プラネリウム」の襲来により人類人口が5億にまで激減した暗黒の時代。

 プラネリウムはなぜか女性だけを攻撃するため、すべての女性は月面へと移住させられ、地球に残された男性たちはいまなお絶望的な戦いをくりひろげている。

 ここらへんのSF設定は全く説得力がないけれど、それはまあ「お約束」なので看過すべし。まあ、「ガンパレード・マーチ」みたいなものですか。

 この過酷な世界で伝説的英雄として崇拝されているルノア・キササゲは、なんの因果か月面で教官として働くことになる。しかし、彼女が任されたのは月面最悪の落ちこぼれ部隊だった――。

 まあ、よくあるお話ですよね。ロバート・アスプリン「銀河おさわがせ中隊」のライトノベル版というか。しかしこの平凡なシャーシに乗せられたエンジンは超強力。「イリヤの夏、UFOの空」ではきっちりオブラートに包まれていた個性が、ここではまるで剥き出しで、なにやらやばいビームを放っている。

 それは、右腕にあたる部分が外され、高速移動形態を半分解いた形で三つのユニットに分解された巨人だった。無用な重量と装甲を奇形的なまでに廃したその四肢の生み出す高機動は、乗り手を選び、敵を選ぶことがない。運動性のみを至上とし、装甲を捨て武装をしぼり、乗員の命すら塵芥と見る設計思想は、太平洋戦争の昔からの五菱(いつびし)重工のお家芸だ。その思いがけなく繊細な左腕は、コンテナの対角線を使ってようやく収まっている長大な軍刀にからんでいる。セフティリボンと絶縁シールで幾重にも封印された、二丈七尺のその剛刃こそは、ルノアと共に幾多の死線をくぐり、どの武装よりも多くの敵を屠ってきた秋壱型改・自己再生超振動刃(ブレード)、その銘(な)も甲斐千角菊御作刀(かいせんかくおんきくのかたな)。
 五菱・A−99クレイプVR4。
 寒さも忘れ、マリポは目の前に座っている死神(ししん)の走狗に見入った。
 思う。双脚砲台は兵器だが、クレイプは武器だ。

 熱いよな。たぶん、この過剰こそが秋山瑞人秋山瑞人にしている。「イリヤの空、UFOの夏」を秋山瑞人ダウナー系作品の最高傑作とみるなら、「E.G.コンバット」はさしずめアッパー系の頂点か。

 もっともこの第1巻ではどれほどのことが起こるわけでもない。たぶん、物語が本格的におもしろくなってくるのは、次からなのだろう。そうでなくては困る。

 ただしさすがは若書き、小説技術的な水準でいえば「イリヤの空、UFOの夏」の洗練には及ばない。設定の開示も唐突だし、全体の構成もいまひとつなめらかさを書く。あの流れるようなストーリーテリングもこの時点では未完成だったのか。

 ただ「イリヤ」の語り口に幾ばくかのあざとさを感じ取ってしまう僕のような読者には、むしろこちらのほうが好ましく思えることも事実。

 それにしても第2巻はどこで買えばいいんだろう。「アニメイト」まで覗いてみたんだけれど、どこにもないよ! 「猫の地球儀」なら置いてあるんですけどね。