ラインの虜囚 (ミステリーランド)

ラインの虜囚 (ミステリーランド)

 読了。

 田中芳樹久々の新作は、「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド」の一冊。いっしょに出版された麻耶雄嵩神様ゲーム」はもったいないので寝かせておくことにして、こちらから読んでみる。

 時は西暦1830年。皇帝ナポレオンの御世がようやく終わり、ヨーロッパはつかの間の平和を楽しんでいた。折りしもパリを訪れた少女コリンヌは、自分が祖父の血をひく身であることを証明するため、冒険行に出る羽目になる。

 目的地はライン河畔の「双角獣の塔」。そこに死んだはずのナポレオンが閉じ込められているかもしれないというのだ。同行者は3人。パリの街角で偶然に出逢った男たちだ。彼女は知らなかった。その3人が世界一の剣士、世界一の海賊、世界一の作家であることを――。

 田中芳樹のヨーロッパものとしては、過去に「アップフェルラント物語」、「カルパチア綺想曲」、「バルト海の復讐」などがあり、各作品ごとに出来不出来はあるが、今作は成功作に入ると思う。子供向けのため、平明に抑えた表現が、この場合は功を奏している。
練達のストーリーテリングは滑らかでよどみなく、読者は軽快な足取りで冬のヨーロッパを旅することができる。多少ご都合主義が過ぎる一面はあるが、妙に意地が悪い田中節は愉快だし、そこかしこにはさまれる歴史トリビアも楽しい。

 惜しむらくは、悪役のキャラクターが弱い。この難点のため、田中芳樹の冒険小説は、歴史小説に比べて緊迫感が薄いきらいがある。その辣腕は、やはり戦争と謀略をえがくそのときにこそ最も輝きを放つのではないだろうか。

 ちなみに、今後「ミステリーランド」で新刊が予定されている作家は以下のとおり。

我孫子武丸
綾辻行人
井上雅彦
井上夢人
恩田陸
笠井潔
菊地秀行
京極夏彦
二階堂黎人
法月綸太郎
山口雅也

 見事なまでに「京都遅筆作家クラブ」の面々が残っているなあ。このなかでは、笠井潔法月綸太郎あたりが子供相手にどんなものを書くのか楽しみだが、さて、じっさいに刊行されるのはいつになることやら……。