SPEED (The zombies series)

SPEED (The zombies series)

 読了。

 映画「フライ、ダディ、フライ」公開にあわせて(だろう、たぶん)刊行された金城一紀最新刊は、「ゾンビーズ・シリーズ」の最新作。

 ゾンビーズとは都内屈指の低学力を誇る某高校のおちこぼれ集団。危険を好み事件を愛し、なにかやばい匂いがすればくちばしをはさんでまわる少年たちだ。かれらについて詳しくは「レヴォリューシュンNo.3」をどうぞ。

 しかし「フライ、ダディ、フライ」と同じく、今回のゾンビーズはただの脇役。この物語の主人公は、たまたまゾンビーズと知り合ってことから、生まれてはじめての冒険を潜り抜けることになったひとりの少女である。

 それまであたりまえのようにレールの上を歩んでいた彼女は、はじめてレールの外にある世界を知り、さまざまなことを学んでいく。この世界の仕組みのこと、赤信号を無視して進むこと、ハートとソウルを熱くさせること、絶対に裏切らない仲間のこと――。

 生まれてはじめて冒険に出るわりにはやたらと度胸がいいし、口が減らない少女だが、不良育ちのゾンビーズの仲間だから、このくらいでちょうどいいのかも。いままでの人生で知ることがなかったスピードに乗って、嵐のひと冬を駆け抜ける。

 緩急自在のストーリーテリング、漫画的にデフォルメされたキャラクター、随所に挟まれたくすぐり、一本の小説としてべらぼうによくできた作品である。朴舜臣はあいかわらずかっこいいし、山下はいつもどおりに笑わせてくれる。

 そして今回は超ハンサムのアギーがいい味を出している。この作品を読んで、僕はアギーが大好きになった。超イケメンに生まれたらそれだけでもう人生勝ち組なのか? そんなわけはない。かれもいろいろと考えているのだ。そこらへんもよくえがけていると思う。

 もっとも、スマートに決まりすぎているせいか、なんとなく物足りなく感じることも事実。石田衣良伊坂幸太郎の作品を読んでも思うが、あまりに巧すぎる作家の作品はどこか物足りなさを感じさせるものらしい。まったく、どこまでもわがままで贅沢な話ではあるけれど。

「跳躍は、自分がいる場所から出て行きたいって象徴なんだよ。バレエの跳躍も――、確かジュテって言うんだっけ?」
 うなずいた。
「バレエのジュテもおんなじだよ。むかしのヨーロッパはしゃれになんないぐらいの階級社会だったからな。伝統とか因習とか慣習とか、そんな自分たちを縛りつけてるもんを重力に見立てて、バレエダンサーがそれに逆らってどれだけ高く飛べるかを観て観客は感動してたんだ――」アギーはそこまで言うと、おどけたように肩をすくめ、言葉を継いだ。
「って、俺が読んだ本には書いてあったよ」
「知らなかった」とわたしは言った。
 アギーは微笑んで、言った。
「いつかおまえのジュテを見せてくれよ」