モロッコ水晶の謎

モロッコ水晶の謎

 読了。

 有栖川有栖最新作。大御所エラリー・クイーンの顰に倣い、タイトルに国名を冠したこのシリーズも遂に第8弾。どこまでもクイーンに倣うなら、あと1、2作で終わらせなければならないのだが、さて、どうなることやら。

 まあ、仮に国名シリーズが完結しても「作家アリス」の物語そのものは続くだろうから、どうでもいいといえばどうでもいいけど(さらにどうでもいいことだが、名探偵ではなく記述者の名前で知られる推理小説というものもめずらしい)。

 今回は表題策のほか「助教授の身代金」、「ABCキラー」、「推理合戦」を収録。このうち「推理合戦」のみが軽いショートショートで、ほかの三篇が中篇である。「ABCキラー」は既読なので、実質的には今回読んだのはわずか中篇二篇ということになる。

 「助教授の身代金」の発想はおもしろいと思う。まさに本格推理にふさわしい倒錯した構図。ただ、あまりにも料理の仕方があっさりしているのが物足りない。もっと練りこめる素材なのでは、と思うのは一読者の欲目か。

 「モロッコ水晶の謎」はアリスが女占い師へインタビューするために豪邸を訪れるところから始まり、火村が衆人環視のなかでの毒殺事件の謎を解く。クイーンというよりカーみたいな雰囲気。

 この毒殺トリックにはなにか見覚えがあるな、と思ったら、「Q.E.D −証明終了−」に近いものがあった。それにしてもこの結末は、いかにも有栖川有栖川らしい(以下、微妙にネタバレ気味なので注意)。

 なぜかこの点はあまり話題にならない気がするが、有栖川有栖は悲恋の作家である。かれの小説では、あらゆる恋は悲劇的な結末を見る。それはもう、ほとんど必ずそうなる。いままで事件の裏に悲劇的な恋が隠された物語を何度読んだことか。

 ふたりの有栖川有栖(作中人物)も悲痛な失恋を経験している。うまくいきそうな可能性があるのは、「学生アリス」シリーズのアリスとマリアくらいのものだけれど、とにかく続きが出ないことには作中人物の恋愛どころじゃないからなあ。

 残念ながら「スイス時計」級の作品はなかったが、なじみの人物と再会するだけでも楽しいのがシリーズものの強みである。とにかくさくさくと読める。そういえば広江礼威ブラック・ラグーン」にもそんな話が出てきたっけ……。