To Heart Remember my memories 第5巻 [DVD]

To Heart Remember my memories 第5巻 [DVD]

 アニメ版「To Heart」第5巻。

 マルチの前身にあたる試作型メイドロボ、HMX−11フィールが登場してマルチ誕生の秘密があかされる一方、浩之、あかり、マルチの三角関係が顕在化し、いよいよ物語は佳境へと向かうことになる。なるのですが。

 うーん、お兄さんはちょっと観るのが辛くなってきたよ。

 ここまで来ると、この作品のコンセプトが原作とは全く違うことがはっきりしてくる。原作の魅力は、あえて大袈裟なドラマを排して、徹底的に日常の楽しさと哀しさに焦点を絞ったところにある。

 「恋愛ゲーム」とひと言でいえばそうだけれど、むしろその本質は、ささやかで他愛ないエピソードの積み重ねからひとりひとりのキャラクターを魅力的に描き出すその丁寧さにあったはずだ。

 マルチが「とりゃーっ」と叫びながら廊下を掃除するところとか、かわいかったですね。

 主人公の浩之はある意味でヒロインたちの物語の脇役で、何をするわけでもないんだけど、「いつか何かやってのけるんじゃないか」と思わせるよう造形されている。原作は、巣立つ前の雛鳥、いつかは何者かになるかもしれない何者でもない者の物語だったわけです。

 これに対して、このTVA版でははっきりとモラトリアムの向こう側を描いている。

 浩之は試作型メイドロボであるマルチにかかわったことから、進学してロボット工学を学ぶことを決意する。あかりはマルチに嫉妬を感じ、浩之にあたる。

 平穏な日常は崩壊し、微妙なバランスは崩れ去り、浩之はあいまいな人間関係をはっきりさせることを余儀なくされる。まあ、これはこれで、恋愛成長ドラマとしては王道だといえなくもない。でも、これって「To Heart」じゃないよな(しみじみ)。

 同じことはSF設定にもいえる。この巻にはHMX−11に関連してOSがどうこう感情プログラムがどうこうといったSF的な描写が登場するのだが、潔くSF的強度を捨て去った原作に比べると致命的にダサい。

 「To Heart」がSFである必要なんてないわけで、マルチはロボットであると同時にロボットであってはいけないのだけれど、この作品はそこらへんでバランスを崩してしまっている気がする。

 ただ、これはもう、一度完成された作品の続編を製作することにどうしようもなく伴うジレンマに過ぎないのかもしれない。

 いまさら「To Heart」をアニメにしようなんて考えた時点で、こうなってしまうことは決まっていたのだろう。そういう意味では、まあ、こんなものかな、とも思う。