読了。

 上遠野浩平ブギーポップ・シリーズ、番外編「ビートのディシプリン」を除くと2年ぶりになる最新刊。

 はじめて読んだときはいかにも最先端の鋭く尖った小説に思えたものだけど、最近ではなんとなく懐かしさすら感じる。歳月は光速で過ぎていくなあ。

 今回の主人公は「統和機構」が抱える人造人間の少年、蒼衣秋良。

 かれは統和機構の「失敗作」である少女、織機綾(カミール)とともに、異常現象が多発する山に迷い込む。そこには秋良の理解を絶するさまざまな危険が待ち受けていた――。

 と書いてはみたものの、この作品の場合そういった梗概めいたことにはあまり意味がない。

 プロットだけならベタベタのB級娯楽小説なんだけど(菊地秀行の「エイリアン妖山記」を思い出した)、上遠野浩平は熟練の手つきで物語を類型からからずらしていく。

 ていうか、うまいなー。なんなんだろう、この読みやすさは。

 ゆったりした立ち上がりでで読者を物語のなかへひきずりんだかと思うと、あっというまにギアをトップに入れて加速していく、この鋭さ。

 シリーズ未読者はここから読みはじめてもいいと思う。

 シリーズの内外に膨大なリンクが貼られていて、さまざまな固有名詞がなんの説明もなく出てくるので、たぶんはじめて読むひとにはさっぱり理解できない世界だとは思う。

 でもまあ、どうせ全部読んだところでわからないものはわからないのだ。

 上遠野浩平は、リアリズムを大切にしている作家だと思う。かれの世界は謎と秘密で満ちているが、ほとんどの場合、それは最後まで謎のままで終わる。

 そもそも物語の中心であるブギーポップというキャラクター自体、よくわからない。

 また、MPLSにしろ人造人間にしろ、その能力には決定的な較差があり、しかも努力しても埋まらない場合が多い。

 しかも最強に近い能力をもつ者ですら運命を前にしては無力であり、ほんのちょっと運が悪かった、ただそれだけであっさりと死んでいく。

 上遠野浩平が生み出した世界は、徹底的に理不尽で、不平等で、ばらばらで、でたらめだ。現実がまさにそうであるように。

 僕たちが生きているこの世界で、すべての真実がつまびらかになることがどれだけあるだろう?

 いつだって僕たちは、自分の手元にあるわずかなピースだけで、完成するはずもないジグソーパズルを組み立てているだけだ。

 だからこそ人間は物語に美しく完成されたパズルを求めるのかもしれないが、上遠野が書くものは、そういった意味では「物語」じゃない。

 上遠野の小説は、表面いかにも荒唐無稽だが、その実、正確な資料に基づいているとか、細部が精密に描けているといったこととはまったく違う次元で、「リアル」なのだ。真の意味で小説がリアルであるということは、こういうことなのだと思う。

 そもそも、この不気味な泡を巡る物語は、シリーズとはいっても、直線的に進んでいっているわけではない。むしろいくつもの話が同心円状にならんでいるイメージが近いだろう。

 始まりもなく、終わりもない、入り口もなく、出口もない、もうひとつの現実。上遠野は、そこで起こる事件を順不同に語っていっているようにもみえる。