ミステリ十二か月

ミステリ十二か月

 読了。

 現代の名匠北村薫が、ミステリ初心者に向けて名作五十作をかたる一冊。イラストレーターとの対談やエッセイなども収録されていて、なかなか楽しい本に仕上がっています。でもなんといっても注目は有栖川有栖との対談でしょう。

 どちらもミステリについては一家言あるふたりだけに、丁丁発止のやりとりが続き、はたから見ていると大変おもしろい。やっぱりこれくらいのレベルにならないと対話とはいえないよね。少なくとも損したから金返せとか筆を折れとか、そういう次元の話じゃない。

 小説というものは、これは85点で合格とか、60点だから不合格とか、そういうふうに読むべきものじゃないと思う。すべての作品が唯一無二であり、唯一の価値をもっているのだから。何が書かれているかではなく、どこまで読み取れるかが重要なのではないか。

 ところが、たくさん本を読めば読むほど、安易に比較のなかで価値を探ろうとすることになる。ときにそれは一冊の本と誠実に向きあうことを阻害する。読むために読むのではなく、採点するために読むようになったとき、鼻持ちならない傲慢な採点屋ができあがる。

 北村薫にしろ、有栖川有栖にしろ、そういった衒いとは無縁のところで本を読んでいるようです。権威とも、反権威とも関係ないところでただ読むために読むこと――少年のように無邪気に、驚きとよろこびを追いかけること。

 たいてい読めば読むほどそのあたりまえの境地から遠ざかっていくのですが、こういう本を読むと初心が蘇ります。しかし僕、この50冊の半分以上読んでいないよ。最近ミステリ離れしているけれど、基本どころで読みのがし多すぎ。ああ、ゆっくり本が読めるのはいつになるやら。