ラーメン発見伝 1: 繁盛店のしくみ (ビッグコミックス)

ラーメン発見伝 1: 繁盛店のしくみ (ビッグコミックス)

 読了。

 伊藤剛さんのはてなで話題になっていたので読んでみた作品。

 なるほど、これはおもしろいですね。まあいってしまえばラーメン版「美味しんぼ」なのですが、先行作品である「美味しんぼ」の長所と短所を踏まえていろいろと改良を加えた感じ。

 「美味しんぼ」の海原雄山に相当する芹沢さんのキャラがいい。ラーメン職人として超一流の技と頭脳をもちながら、だれにも理解されないアートの道へ踏み込むことを拒み、あくまでもビジネスとしてラーメンを扱う商売の鬼。

 しかしそれでいてたんなる金の亡者ではなく、だれよりも深くラーメンを愛しているからこそ、シニカルな態度をとらざるをえない男なんですね。

 一人前の大人として、厳しいプロとして、しょせんは青臭いアマチュアに過ぎない主人公の前に立ちふさがるこの人物の存在感は、圧倒的なものがあります。

 この複雑な陰影を秘めた(それでいてどこか間が抜けている)魅力的なキャラクターにくらべると、肝心の主人公がいまひとつ個性が薄いのがちょっと残念かな。ヒロインもなんだか平凡だしなあ。敵役のほうが魅力的なのは漫画として微妙なんじゃないかと。

 ここであつかわれている「ラーメン」という題材は、ポップカルチャー全般のメタファーとして読むこともできます。

 長い歴史はなく、伝統もなく、しかしそうだからこそいまだ多くの可能性を秘めた食べもの、センスとひらめき、そして固体観念を越えた自由な発想を要求されるジャンルとしてのラーメン。

 最初はジャンクフードでしかなかったのに、さまざまな創意工夫の末に、アートにまで高められていき、しかしそれでもけっしてビジネスの現場から離れることはない、あくまでも大衆のためにあるカルチャーとしてのラーメン。

 この漫画ではそのラーメンの抱える活気と現実的問題を通して、ポップなるものの未来と課題を探ろうとしているように見えます。

 素材が身近な食べものだけに、自分が気に入らなければインターネットに悪口を書き散らす身勝手なラーメンマニアの描写など、じつにアイタタな感じ。知れば知るほど、わからなくなることがある。それは、「自分にもわからないことがある」ということ。

 知識なんていくら溜めたってそれだけでは何がわかるわけでもないんだけれど、人間はどういうわけか、自分だけはなんでもわかっていると思い込む。

 通ぶった知ったかぶりのマニアほど小面憎いものはない。日本一のラーメンプロフェッショナルである芹沢は、そのような情報の奴隷を心の底から軽蔑し、嘲笑するのです。