テーブルトークRPGの代表格「ソード・ワールドRPG」の最新短編集。

 ソード・ワールドは神々なきあと、竜や妖精や魔法使いとともにわれわれと同じ平凡な人々が暮らすフォーセリア世界を舞台にしたゲームだが、その小説版は、ひとつの世界を舞台に何人もの作家が筆をふるう「シェアード・ワールド」ものの作品としては、日本でももっとも成功したシリーズだと思う。

 僕も最初の10冊くらいは全部読んでいるんだけれど、最近のものはさすがに未読。書店の店頭でいかにもいまどきのライトノベルっぽい表紙をみるたびに隔世の感を感じてはいたのだが、じっさいに手がのびることはなかった(それにしても「リウイ」のアニメ版は……いや、何もいうまい)。実はこの本も読んだのは最初の一編だけだったりする。

 山本弘「奪うことあたわぬ宝」。むかしむかし、かれが富士見ファンタジア文庫で書いていた「サーラの冒険」の、なんと10年ぶりの最新作。

 いやあ、ほんとひさしぶり。ほとんど田中芳樹的なペースで、ライトノベルでこれに匹敵するのは「ガルディーン」くらいのものではないだろうか。「グイン・サーガ」なんて、そのあいだに50冊くらい出ているぞ。

 「サーラ」は山本弘が90年代前半に書きついでいた小説で、当時のファンタジー小説としては異色といっていいくらい地味で、堅実な作品だった。主人公は英雄でも豪傑でもなく、一人前のおとなですらない少年サーラ。

 幼く無力で、しかし非凡な才能を秘めたこの少年が、知恵をしぼって悪党やら怪物やらと格闘しながら、すこしずつ成長していく物語である。

 ドラゴンが空をとび魔法の稲妻が天を焦がす派手なヒロイック・ファンタジーと比べればいかにもけれん味のない小説ではあるが、いまどきめずらしい正統派少年成長小説として捨てがたい魅力があって、僕はかなり好きだった。

 しかしこのシリーズは第4巻をさいごになぜか沈黙期に入ってしまい、僕は既刊の4冊をたまに読み返しながら延々新刊を待っていたのだった。

 そして10年、ついに出たのがこの新作短編。予想はしていたけれど、全編ひたすらサーラとデルがいちゃいちゃしているという、ほとんど同人誌みたいなお話で(この内容ではシリーズファン以外は全然おもしろくないと思うぞ)、SFホラーの秀作「時分割の地獄」あたりと比べると全然たいした作品ではないんだけれど、それでもやっぱり嬉しいことは嬉しい。

 山本さんにはこの調子ではやく第5巻を書き上げてほしいところ。第4巻の最後で、恋びともでき、人間としても少しだけ成長したサーラはしあわせの絶頂なので、ぜひここから地獄の底に突き落とされる話を書いてほしい。せっかくの大悪役、盗賊都市ドレックノールを支配する「闇の王子」ジェノアもほとんどまだ何もしていないしね。

 まあらぶらぶもいいんだけれど、なにもかもがうまくいっていてサーラくんは幸福の絶頂という現状は、物語としてさすがにきつい。シリーズが中断していたのは、それがわかっていてもかれを奈落へ突き落とすことができなかったせいなのかもしれない。

 才能と勇気を併せもち、努力を惜しまない理想の少年主人公であるサーラくんですが、まだまだ渋みと陰影が足りないので、苦労してえらい大人になってほしいものです(なんだこの結論は)。