信玄忍法帖 (河出文庫)

信玄忍法帖 (河出文庫)

 新版が出たらしいですね。

 「甲賀忍法帖」を漫画化した「バジリスク」がスマッシュヒットしたこともあるんだろうけれど、こうも続けて過去の作品が再販されるということは、死後も衰えぬ人気のしるし、そしてなによりこの不世出の物語作家の作品には、出版にたずさわる立場の人間たちに「この小説を埋もれさせてはならない」と思わせる何かがあるのだろう。

 余談だけど、熱狂的山風ファンを自認する菊地秀行(じっさいにかれの作品を読めば山風作品から多大な影響を受けていることはだれでもわかるだろう)が、「バジリスク」に対して送った賛辞(?)は以下のようなもの。さすがは大菊池秀行あって、一筋縄ではいかないひねくれた推薦文である。なかなかこうは書けない。

 山田風太郎の小説は「絶対小説」である。
他ジャンルへの変貌を絶対に許さない。
映画も、TVも、漫画も模倣小説もすべて失敗した。ざまをみろ。
だが、世界はついに発狂してしまった。「バジリスク」を見よ。
どこからどこまで、山田風太郎ではないか。
妬ましい。妬ましい。妬ましい。
バジリスク」の作者よ、呪われてしまえ。

 その作品の破天荒さからすると意外な気がしなくもないが、菊地秀行というひとは実に良い読者だと思う。たまに文庫の解説などを書いているのを読むと、その「読み」の的確さにうならされることも少なくない。そもそも「魔界都市ブルース」にしても――と続けていくと長くなりすぎるからよす。そうそう、「信玄忍法帖」の話だった。

 ぼくはこの作品は戦後娯楽小説の頂点であるところの風太忍法帖のなかでもかなり上位に入る名作だと思う。具体的には、柳生十兵衛ものの二作品「柳生忍法帖」「魔界転生」(ここらへんはもうひとり山風の最高傑作という次元を超えて、人類の至宝レベル)にはさすがに及ばないにしろ、「くノ一忍法帖」や「風来忍法帖」には比肩するのではないかと。

 その名も恐ろしい「信濃忍法筒枯らし」(どんな忍法かわかります?)をはじめとするエロティックな忍法で有名な「くノ一」や、山風にはめずらしくなんともにぎにぎしい雰囲気の「風来」が名作であることは論を待たないが、「信玄」のおもしろさは決してそれらにひけをとらない。すばらしいのが歴史小説的な側面。

 この小説は信玄の死から信長に滅ぼされるまでの数年間の武田を描いているのだが(真田昌幸真田十勇士の父親が出てきたりする)、最終的にはほろびさることがわかっている国の指導者たちには孤軍奮闘の忍者たちとはまたひと味ちがう哀しさがある。それがなんともいえずいいんだよ、これが。ちなみに、僕が数年前に書いたこの小説の評はこんな感じ。

 しかしどのように細細と粗を探してみても、山田風太郎というひとだけはまさに怪物としか形容のしようがない。天才といってもまだ足りぬ。異才と称しても充分ではない。妖異をきわめるその着想、変幻をきわめるその叙述、そしてなによりも流麗というより他にない洗練されきったその筆致。日本の娯楽小説史上に、英才は他にもあるだろう。鬼才というべきもないことはないだろう。しかし山田風太郎のみはまさに別格である。余人と比較することすら考えられぬ。本書は、そのかれがこの世に遺した三十余作の「忍法帖」のなかの一作。物語の背景となるのは信長が畏れ家康が怯えた戦国の大英傑、老竜武田信玄が卒然として世を去ったその直後の2年間。主役を務めるのは信玄死すの大秘密を探る徳川の忍者とそれを迎え撃つ武田の家臣、そしてすでにこの世にないはずの大軍師、山本勘助──。武田の命運を賭けた凄絶無比の忍法戦の幕があがる。読むべし。

 うーむ、いまいち。菊地秀行の域は遠いぜ。