スペース (創元クライム・クラブ)

スペース (創元クライム・クラブ)

 一体、いつから疑問に思うことをやめてしまったのでしょうか? いつから、与えられたものに納得し、状況に納得し、色々なこと全てに納得してしまうようになったのでしょうか? いつだって、どこでだって、謎はすぐ近くにあったのです。

 読了。

 「ななつのこ」「魔法飛行」に続く駒子シリーズ第三弾。「スペース」と「バックスペース」と題された二本の中編からなる長編である。

 「スペース」はクリスマスの奇蹟を描いた「魔法飛行」の直後から始まり、またも駒子に元にとどいた手紙を巡る「謎」が披露される。

 そして後半の「バックスペース」では、べつの人物の視点から駒子の日常が語られることによって、前半の物語が解体され、批評され、べつの物語として組み立てなおされることになる。

 駒子より遥かに辛辣な目を通すことによって、読者には彼女に見えていた世界がいかにあたたかく優しいオブラートに包まれていたか思い知るなるだろう。その意味でも、ほかの意味でも、前二作に比肩する構成の妙が光っている(「ほかの意味」について語ることができないが!)。

 「スペース」はいままで駒子の物語を読んできた読者にとっては微笑ましくも喜ばしい結末を見るが、それは「バックスペース」において巧妙な伏線となって記述の記述を完成させる。

 「スペース」と「バックスペース」はたがいにたがいを補完しあってひとつの道脇の花のように可憐な物語を形作っているのだ。

 もっとも、トリックそのものにそれほど衝撃的な意外性があるわけではない。おそらく作者自身、読者に読まれることを予想して書いているだろう。しかし、十数年前に上梓された第一作の記述が、あたかもはじめから完璧に計算しつくされていたように伏線となって機能するさまを見せられると、やはり驚嘆せずにはいられない。

 青空の彼方に消えうせたブームランが、巨大な弧を描いてひとの手に戻ってくるのをみるような感動。未読のミステリファンには「ななつのこ」「魔法飛行」とあわせて読むよう薦める。

 三作すべてが技巧的な構成を採用し、しかも水準以上の秀作となっている稀有なシリーズである。続編も二作も続くとたいていはずれが混じるものなのだが、このシリーズではそれぞれに完結した連作短編や連作中編からなる三篇の小説がひとつの物語を成している。上手いなあ。